研究概要 |
統合失調症は複数の遺伝要因と環境要因が相互に影響して発症する多因子疾患と考えられているが、遺伝要因の関与が大きい。セロトニン神経の機能障害が統合失調症の病態に関与していると考えられており、脳内のセロトニンは主としてトリプトファン水酸化酵素2(tryptophan hydroxylase 2,TPH2)により合成されることから、TPH2遺伝子は統合失調症の有力な候補遺伝子である。 先行研究ではTPH2遺伝子と統合失調症との有意な関連は認められていないが、サンプル数やマーカー数が十分とは言えない。そこで、TPH2伝子が統合失調症の発症脆弱性に関与している可能性を検証するため、先行研究よりも規模の大きな独立した2つのサンプルを用いた二段階関連解析を実施した。 一次サンプルは、統合失調症患者626人と健常対照者620人からなる。二次サンプルは、統合失調症患者2007人と健常対照者2195人からなる。本研究はすべての参加施設の倫理審査委員会の承認を得ており、対象者には研究について十分な説明を行い書面による同意を得た。16のタグ一塩基多型、タンパク質コード領域のリシークエンスにより同定された2つのミスセンス変異、2つのコピー数多様性の計20マーカーを解析した。 一次サンプルで統合失調症との有意な関連が認められた3つの一塩基多型(rs2129575、rs1487275、rs17110747)、統合失調症患者のみで同定され健常対照者では同定されなかった稀なミスセンス変異p.R225Q(rs13989603)の計4マーカーについて、二次サンプルで確認解析を行ったが有意な関連は認められなかった。 先行研究に加え、適切に選択されたマーカーおよび大規模サンプルを用いた本研究においても、TPH2遺伝子と統合失調症との関連は認められなかったことから、TPH2遺伝子が統合失調症の発症脆弱性に関与していないであろうことが示唆された。
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