ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の受容体の一つであるKiller Immunoglobulin-like Receptor(KIR)は、NK細胞の活性化制御に重要な役割を担っている。KIR遺伝子は全部で17種類存在しているが、興味深いことに個体間での遺伝子座数に大きな違いがみられる。近年、ある特定のKIRを保有することが疾患感受性と関係があるという証拠が相次いで報告されている。しかしながら、KIRの多くはリガンドが未知であり、疾患感受性の分子細胞メカニズムは不明である。そこで本研究では、KIRのリガンドを探索することによって、疾患感受性のメカニズム解明へつなげることを目的とする。 KIRと結合するリガンドを探索するために、KIRの細胞外部分とヒトイムノグロブリンのFc部分との融合組換えタンパク質(KIR-Ig)を作製した。すでにHLA-C2がリガンドであることが判明しているKIR2DL1-IgをHLA-C2が発現している細胞で染色したところ、結合する事が確認できたことから、機能するKIR-Ig融合タンパク質が得られた。作製したKIR-Igを用いて、ウィルス感染細胞、原虫、細菌等の様々な感染細胞および病原体を染色したところ、KIR2DS4-Igが特定のウィルス感染細胞に結合することが明らかとなった。これは特定のウィルス感染細胞上にKIR2DS4のリガンドが発現していることを示している。KIR2DS4は、個人間で遺伝子の数が異なり、日本人の約20%がNK細胞上に発現しておらず、機能的な遺伝子を保有していない。また、集団間においても機能的なKIR2DS4の遺伝子頻度が異なる。KIR2DS4のリガンドを同定し、その細胞生物学的な意義を見出す事は、生体における感染症制御メカニズム解明につながる可能性が考えられる。
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