本研究は、社会心理要因に関する質問票、生化学的・生理学的指標等を用いた系統的な分析を行い、社会心理要因と飲酒習慣の循環器疾患抑制効果のメカニズムを検証することを目的している。本研究仮説は、少量~中等量の飲酒(エタノール1-45g/日)において、社会的サポート・ネットワークが少ない者は、社会心理的要因が良好な者に比べて、自覚的ストレスが高いことに加えて、インスリン抵抗性が高い、中性脂肪値が高い、起床時血圧が高い、夜間から翌朝の交感神経が優位、中心動脈圧が高い等である。 本年度は秋田県I町における循環器健診受診者約1600人を対象として、社会的サポート等の社会心理要因、飲酒習慣を含む生活習慣及び血圧、総Chol、HDL-C、血糖、BMI等を得た。また、40-80歳男女約800人ついて中心動脈圧(AI:augmentationin dex)の測定、40-74歳女性約260人について家庭血圧・心電図検査を実施した。問診・質問紙調査の結果、ストレスを大いにあるいはかなり感じている者は約22%、情緒的なサポートが殆どないと感じている者は約7%、相談ができる友人が全くいない者は約10%であった。 昨年度及び今年度のデータから、少量~中等量の飲酒者で社会的サポートに関する質問に回答した者862名(男625人、女237人)を抽出した。社会的サポート得点は、「情緒的な支え」、「信頼・信用できる」、「考えや行動を支持してくれる」の3項目(3-15点)から算出した(α係数=0.89)。社会的サポートが多い群(15点)では低い群(3-9点)と比べて、年齢、性、喫煙を調整後の中性脂肪、血糖、インスリン抵抗性(HOMA指数)、総Chol、HDL-C、健診時血圧、中心動脈圧、交感神経の優位性(LF/HF)には差がなかったが、早朝の拡張期血圧が低い傾向がみられ、自覚的ストレスが少なかった。 以上より、少量~中等量の飲酒者において社会的サポートの低い者で脳卒中抑制効果が認められない理由として、早朝血圧の高値、ストレスの関与が推察された。
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