研究概要 |
本研究は癌遺伝子である転写因子c-mycが心筋細胞において特異的な遺伝子発現制御を示すことから、その転写複合体をin vivoの状態を保ったまま抽出し、構成する転写制御因子や転写共役因子群を同定・解析することを目的とする。当初は、心筋細胞にアデノウイルスを用いてFLAGタグ付c-myc蛋白質を発現させ、c-mycの標的遺伝子のプロモーター上に転写複合体を形成させた後、ホルムアルデヒドによるin vivoクロスリンク反応にてこの転写複合体を生化学的に安定化させ、免疫沈降法にて転写複合体を回収し、高分子量領域にシフトする転写複合体を逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を用いて精製することを試みた。しかしながら結果の再現性に乏しく、目的とする転写複合体の同定は本方法では困難と考えられた。そこで、本年度はphoto-reactive amino acidsによるinv ivoクロスリンク法を用いて同様の検討を行ったが、ホルムアルデヒドの場合と同様に、高分子量領域にシフトする転写複合体を検出できるものの、RP-HPLCによる精製がうまくいかず、in vivoクロスリンク反応を用いる方法は断念することとした。原因として、クロスリンクされることで蛋白質複合体がnativeな複合体とは異なる動態を示す可能性や、RP-HPLCが巨大な蛋白質複合体の分離には適さない可能性が考えられた。次に、クロスリンク反応を行わずに転写複合体を核から溶出する方法を確立することを目指した。核蛋白質の抽出は核分画から高塩濃度bufferあるいは超音波により溶出する方法が一般的だが、高塩濃度bufferではaffinityが高くかつ微量しか存在しない転写因子は抽出困難であり、また超音波では蛋白質複合体が破壊やDNAの混入が起こるため、独自の抽出法を確立することとした。培養心筋細胞から核分画を精製後、数種類の核蛋白抽出溶液を試し、そのうち1種類でDNA混入が無く蛋白質複合体を保ったまま核蛋白質群を抽出することに成功した。次に、c-mycが心筋細胞特異的にその発現を抑制した1つの遺伝子Xに着目し、比較ゲノミクス法を用いて、その遺伝子の種を超えて保存されているプロモーター候補領域約3,000bpを同定し、クローニングした。その後、これらの候補領域を分割してtranscriptional reporter lentivectorに組み込み、心筋細胞に発現させることで、候補領域をさらに狭めていくことを行った。最終的に数百bp程度に絞り込んだプロモーター候補領域をbaitとして、c-mycを発現させた心筋細胞の核抽出液を用いて、心筋細胞特異的転写複合体を構成する転写調節因子群を超高感度LC/ISを用いて同定する方法を確立した。
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