血管を構成する細胞群の中でも血液の血管外漏出を防ぐバリアーとなる血管内皮細胞は、急性の炎症反応において、炎症性サイトカインによって活性化され細胞骨格のリモデリングを引き起こすことが知られている。本研究では、血管内皮細胞の炎症時における機能を解明する目的で、炎症性サイトカインTNF-aによって発現誘導されるタンパク質リン酸化酵素NUAK2と、その基質として同定した細胞骨格の制御にかかわる分子MYPT1の機能解析を行い、TNF-aによって活性化される血管内皮細胞の機能にNUAK2-MYPT1シグナルがどのようにかかわっているかを明らかにする。 本年度では、NUAK2-MYPT1シグナルがどのように細胞骨格のダイナミクスにかかわるかについて培養細胞を用いて検討した。NUAK2をノックダウンした細胞では細胞形態が顕著に変化しており、免疫染色やタイムラプス観察の結果から、アクチンストレスファイバーの消失とミオシン軽鎖のリン酸化の減弱が認められた。NUAK2はミオシン軽鎖の脱リン酸化酵素であるMYPT1を負に制御して、細胞骨格を制御していることが示唆される。我々はこれまでにNUAK2によるMYPT1の新たなリン酸化部位を同定しているので、今後はMYPT1リン酸化部位変異体を用いてさらに詳細なメカニズムを検討するとともに、既知のリン酸化部位との機能的相違についても解析を進めていく。 またNUAK2の活性化機構の解明は、特異的なリン酸化阻害剤の開発につながることから、NUAK2の自己リン酸化部位の同定も試みている。NUAK2タンパク質を精製しin vitroリン酸化反応とHPLCを組み合わせて解析を行い、いくつかの候補部位を同定した。今後は候補部位の変異タンパク質を作製し自己リン酸化部位を同定していく予定である。
|