研究概要 |
本研究は、低酸素環境に対する呼吸運動の応答を制御する中枢神経機構を明らかにするために、縫線核セロトナージックニューロンについて、低酸素刺激に対する変化を検証した。 まず、縫線核ニューロンの部位による低酸素刺激に対する反応性の違いを明らかとし、その亜部位を低酸素刺激した際の呼吸活動の変化を検証した。また、低酸素刺激に反応して活動性を上昇させる、縫線核セロトナージックニューロンの解剖学的位置および軸索投射経路を明らかとすることを目的とした。 縫線核の外側亜核に、低酸素刺激により脱分極し、自発的な活動が活性化するニューロンが見出された。それに対し、縫線核の正中亜核には、低酸素刺激によって脱分極するが、自発的な活動が消失するニューロンが確認され、部位による低酸素刺激に対する縫線核ニューロンの反応性の違いが明らかとなった。それらは、テトロドトキシン(TTX,1μM)およびカドミウム(Cd,10μM)を加えた検証から、縫線核ニューロンの神経細胞膜特性による変化であると考えられた。また、人工的な低酸素刺激となるNaCN(1mM)を加えると、外側亜核では自発的かつ周期的な呼吸活動が活性化されたが、正中亜核では呼吸活動の周期に変化は認められず、活動振幅の減少が認められた。さらに、ペースメーカー活動を示さない呼吸ニューロンが、自発的にリズム性バースト活動を示すペースメーカー細胞へと表現型を変化させることが見出された。そして、抗TPOH抗体やバイオサイチンを用いた検証から、縫線核から呼吸中枢領域へ投射するセロトナージックニューロンが確認された。 以上より、縫線核セロトナージックニューロンが低酸素刺激に対して呼吸活動を賦活化させ、さらに、軸索末端シナプスからのセロトニンの分泌によって、呼吸中枢神経細胞の膜特性を変化させ、呼吸ペースメーカー細胞の数を制御していることが示唆された。
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