研究概要 |
本研究の目的は,歯肉上皮細胞においてTGF-βが細胞間接着因子の発現を制御するか検討するものであった。まず,培養ヒト歯肉上皮細胞をAggregatibacter actinomycetemcomitans Y4 (Aa Y4)で刺激したところ,TGF-β1の遺伝子発現は上昇し,抗生剤を添加するとその遺伝子発現は減少した。また細胞接着能に関する影響を調べるため,インテグリンおよび細胞外マトリックスの遺伝子発現量を確認したところ,Aa Y4刺激によりインテグリンα2,α3,β4,β6,テネイシンC,フィブロネクチン1,ラミニン5などの発現量は減少した。しかしインテグリンα5,ベルシカンの発現量は上昇した。接着アッセイ法を用いて細胞接着能を測定したところ,Aa Y4刺激によって著しく細胞接着能が著しく低下した。またTGF-βのシグナル因子であるSmad2を培養ヒト歯肉上皮細胞で過剰発現させたところ,フィブロネクチン,テネイシンC,ラミニン5,インテグリンβ6などの発現量が増加し,細胞接着能も著しく亢進した。以上の結果から以下のような仮説が成り立つと考えられる。ヒト歯肉上皮細胞に細菌が感染すると,細胞は防御するために感染したことを細胞内に伝達し遺伝子発現を調整する。具体的にはインテグリンα5やベルシカンなどがレセプターとなり,ディフェンシンなどの抗菌ペプチドを放出する。また,IL-8などの好中球遊走因子を放出することにより好中球などの遊走を促し,その後インテグリンや細胞外マトリックスなどの発現を減少させることにより細胞間接着能を一時的に低下させ,深部まで好中球を遊走させ細菌を排除するのかもしれない。その後TGF-βシグナリングによりこれら細胞接着因子の発現量が増加し,再接着すると考えられる。これら細胞接着のメカニズムは歯周病の進行,また治癒に大変重要であると考えられる。これらのメカニズムの詳細が明らかになれば,家族性の既往が認められる侵襲性歯周炎の原因解明や,また効率的な歯周組織再生療法に応用できると考えられる。
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