レジスチンはアディポサイトカインの1つであり、インスリン抵抗性を調節するタンパクとして発見され、糖尿病合併症の炎症病変の発症にも関与している。これまでにレジスチンが歯肉溝滲出液(GCF)中に存在し、歯周炎罹患部位のGCF中に高濃度に存在することを共同研究者らが見出している。歯周炎におけるレジスチンの関与・役割については他に報告がなく全く不明である。本年度の研究では、歯周組織におけるレジスチンの発現調節機構と遊離機構について明らかにした。歯周炎罹患部位のGCF中のレジスチン濃度が高いことから、単球/マクロファージや好中球などの免疫担当細胞から産生されることが想定された。ヒト末梢血より分離した好中球を用い、歯周病原性細菌P.gingivalis由来lipopolysaccharide(P.g-LPS)が好中球からのレジスチンの遊離を増加するかどうか調べた。培養上清中および好中球よりタンパク画分を抽出し、ウェスタンブロット解析およびELISA法により定量測定を行い、蛋白レベルで検討を行った。好中球をP.g-LPSで処理すると、細胞上清中のレジスチンは刺激30分後に対照群の3倍の増加を示した。またこのレジスチンの遊離はP.g-LPSの濃度に依存して上昇した。さらに、レジスチンの遊離促進の機構について調べた結果、アクチンの重合阻害剤によって抑制されることが明らかになった。また、歯周組織を構成する細胞のセルラインを用いてレジスチン発現をmRNAレベルで確認したところ、歯肉上皮細胞、歯肉線維芽細胞には発現が認められず、骨芽細胞での発現も弱かった。しかし、単球では好中球と同様に発現が認められた。以上の結果により、歯周炎罹患部位において病原因子のP.g-LPSが好中球や単球からのレジスチン遊離を促進させ、その結果、GCF中のレジスチンレベルが高まることが推察された。
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