生理食塩水を血管内に注入し、血液が希釈された領域をMRIで描出するための基礎研究を行った。今回は本法が実現可能かの初期検討のみの計画であるが、最終目標は腎不全や気管支喘息などにより造影剤使用の危険性の高い患者でも、造影剤の代わりに生理食塩水を用い安心して血管内治療を受ける事ができるようにすることである。前年度の研究成果に基づき、ファントム実験で血液が凝固しないようにするための薬剤はヘパリンを用いた。ファントム実験では様々な撮影法で生理食塩水と血液の信号強度を測定し、それらの信号強度差を背景ノイズの信号強度の標準偏差で除した信号雑音比(CNR)を求めた。撮影法はFSE法T2強調像(T2)、SE法T1強調像(T1)、FE法T2*強調像(T2*)、Bold Venography (BV)、balanced FFE法(BFE)の5種類である。血液と生理食塩水とのCNRはT2:73、T1:22、T2*:18、BV:28、BFE:45であり、いずれの方法でも有意な信号強度差を確認することができた。この時の撮影時間(秒)はT2:173、T1:235、T2*:59、BV:28、BFE:65であった。さらに、健常成人の下肢静脈に生理食塩水を注入することにより血管内の信号強度が変化するか否かの検討を行った。撮影法はファントム実験で用いた撮影法の内、血流による信号低下が少なく撮影時間の短いT2*とBFEを用いた。生理食塩水は0.7ml/secにて足関節背側の皮静脈より撮影開始の5秒前から撮影終了まで持続的に注入した。測定は生理食塩水の注入前と注入中で静脈内と筋肉との信号強度差を測定しそのCNRを求めた。BFE法でのCNRは注入前98.7注入中210.7、FFE法でのCNRは注入前47.6注入中159.1となり生理食塩水の注入により血管内腔の信号強度が著明に上昇した。また、生理食塩水注入中の画像と注入前の画像の差分を行うことにより、生理食塩水が流入した領域を画像化することが可能であった。この生理食塩水注入による血管内の信号強度の上昇は血液の希釈と流量の増加の両方の効果によるものと考えられた。MRIによる血管内の生理食塩水を注入された領域の描出は実現可能な技術と考えられた。
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