マラリア原虫は、ヒト赤血球内に寄生し分化した後、蚊の一種であるハマダラカの吸血によってヒトからヒトへと運ばれる。一連の過程において、マラリア原虫はベクターであるハマダラカ体内で様々な宿主応答に晒される。モデル系であるハマダラカ(Anopheles stephensi)とネズミマラリア原虫による吸血実験系を用いて、ある野生型であるPbR系統はマラリア原虫の感染に強い感染抵抗性(Plasmodium-refractoriness)を示すことが明らかとなった(平成22年度)。 本年度は、マラリア原虫の一連の蚊体内ステージで、PbR系統による抵抗性がどの段階で働いているのかを、発生段階特異的に発現している表面抗原に対する特異抗体(抗PyO6抗体および抗PyS25抗体)を用いた免疫染色法により検討を行った。その結果、雄生殖母体から雄生殖体への分化は正常に行われており、ハマダラカ消化管(中腸)を通り抜ける前の発生段階であるオーキネートへの発生が正常通りに進んでいないことが明らかとなった。以上の結果から、ハマダラカ中腸内における雌雄生殖体の受精からオーキネート分化の過程で抵抗性が働いていることが強く示唆された。本研究で見出した抵抗性PbR系統を用いることでマラリア原虫とハマダラカ中腸環境の相互作用解析を行うことが可能となった。 さらに、ハマダラカ中腸適応メカニズムの解析を目的として中腸内ステージのトランスクリプトーム解析を計画し、そのためのツールとしての中腸内ステージレポーター原虫を作出した。中腸内ステージ特異的遺伝子(s25およびWARP)のプロモーター下にGFPを組み込んだ配列を野生型マラリア原虫に組み込みレポーター原虫とした。この原虫を利用することで中腸内ステージ原虫の精製が可能となる。
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