本研究は、原虫が産生する含硫脂質が新たな病原因子として機能しているかの検証、あわせて宿主側の応答の解析も行ない、同因子を介した感染成立の分子機構の解析を通して、赤痢アメーバの病原機構の解明に資する成果を挙げることを目的としている。22年度は、関連遺伝子の発現を変化させた各種原虫株の取得、ならびにこれら原虫のマウス感染モデルの構築など、系の立ち上げを行なうことを予定した。 マウスの系統はCBA/Jを用いた。このCBA/Jマウスには赤痢アメーバHM1株が80%と高い割合で感染することが報告されている(C57BL/6、BALB/cには定着せず排除される)。HM1株はノックダウンの系が確立されていない。一方ノックダウンが可能な培養株(G3株)は同じHM1株由来であるが、マウスへの感染系が確立していない。今回G3株のマウス盲腸への感染を試みたが、定着は全く起こらなかった。一方肝臓および脾臓への感染は数回の定着例をみたが、再現性が低い。23年度は引き続き、系の構築を目標として、マウスへのステロイド剤の投与などを行いG3株のマウスへの定着を成功させる。 in vitroの評価系としての赤痢アメーバと初期免疫に重要な樹状細胞・マクロファージの共培養は、赤痢アメーバの貪食能が高いため、赤痢アメーバを固定する、またはlysateを作成することで評価を行うこととした。骨髄由来樹状細胞とマクロファージを比較すると、マクロファージは赤痢アメーバ(野生株)の刺激で強く活性化するが、樹状細胞の活性化が見られないことが分かった。今後はマクロファージを用いて含硫脂質の評価を行いたい。また、樹状細胞の活性化が起こらないことを解析することで、明らかになっていない宿主側の受容体(赤痢アメーバを認識する)についても新たな知見が得られるのではないかと期待している。
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