研究概要 |
赤痢アメーバは典型的なミトコンドリアを持たない。代わりにマイトソームと呼ばれるミトコンドリア残存オルガネラを持つ。申請者はマイトソームの生化学的な解析を行い、マイトソームの主たる機能が硫酸活性化経路であること、最終代謝産物が"含硫脂質"であることを過去に報告している(Mi-ichi.et al.2009 PNAS)。本研究は、マイトソームの生理的意義を明らかにするため、この"含硫脂質"が新たな病原因子として機能するかを検証し、赤痢アメーバの病原機構の解明に資する成果を挙げることを目的としている。赤痢アメーバの病原機構の解明には遺伝子改変原虫のマウス感染モデルが不可欠であると考え、22年度に遺伝子改変原虫のマウス感染モデルを構築、23年度は構築した系を用いて、病原性の評価を行うことを予定していた。マウスの系統はCBA/Jを、原虫はノックダウンが可能な培養株(G3株)を用いた。22年度に数回の定着例をみたが、再現性が低く、原虫のマウス感染モデルとしての使用には未成熟であった。そこで本年は、遺伝子改変原虫のマウス感染モデルの構築を行いつつ、同時に別のアプローチを行った。赤痢アメーバの硫酸活性化経路の酵素をノックダウンすると、ノックダウンの程度に比例して原虫の増殖が阻害されることを見出した。さらに阻害剤を探索し、chlorateが赤痢アメーバ硫酸活性化経路の第一酵素であるATP sulfurylaseの阻害剤であること、原虫の増殖を阻害することを見出し、論文に報告した(Mi-ichi,et al.2011 Plos.Negl.Trop.Dis)。病原因子と期待する硫酸活性化経路の阻害:剤を得たことは非常に大きな収穫であり、今後宿主体内の赤痢アメーバへのchlorateの作用を解析することで、赤痢アメーバが産生する含硫脂質の機能解析を既存のマウス感染モデルで行うことが出来るようになると考えている。
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