研究概要 |
2002年に米国より提唱された概念である慢性腎臓病の発症・進展においてAT1受容体情報伝達系活性化の関与が指摘されている.慢性腎臓病患者数は本邦において約1330万人(12.9%)と推計されており,心血管系疾患による入院や死亡のリスクが高く国民の健康を脅かし,さらには医療経済上も大きな問題となっている.本研究は,慢性腎臓病の発症・進展におけるAT1受容体結合因子ATRAPの病態生理学的意義を明らかにするために遂行された.慢性腎臓病の病態における腎組織でのAT1受容体結合因子ATRAP発現とAT1受容体発現との関連性を検討したところ,腎不全モデル動物である片側尿管結紮マウスにおいて,間質の線維化とともに腎組織ATRAP発現量は減少し,さらにDahl食塩感受性高血圧ラットでは,高食塩負荷による腎障害の進行とともに腎組織ATRAP発現量が減少した.以上より,慢性腎臓病の発症・進展に腎ATRAP発現量の減少が関与している可能性が示唆された.また,研究者の予備的研究において,メタボリック症候群のモデル動物であるKKAyマウスにおいて,対照群(C57BLマウス)に比べて内臓脂肪におけるATRAP発現量が減少していることを見出した.すなわち,組織ATRAP発現量の減少が組織局所でのAT1受容体情報伝達系の相対的な活性化をもたらし,慢性腎臓病やメタボリック症候群の発症・進展に関与している可能性がある.将来的には組織ATRAP活性や発現量を増加させることにより,メタボリック症候群や慢性腎臓病の新たな治療法の開発が望まれる.
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