食道癌は、極めて悪性度の高い難治性の癌であるが、未だ実地臨床の現場で有望な診断及び治療標的分子は少ないのが現状である。申請者は、既知の食道扁平上皮癌の増幅領域のうち1q32-41増幅領域の再評価により、細胞増殖と腫瘍の悪性度に関わる新しい癌関連遺伝子SMYD2を同定した(Komatsu S.et al.Carcinogenesis 2009)。本研究は、消化器癌、特に胃癌において(1)発癌、悪性度に関するSMYD2の分子機構の更なる解明(下流分子、標的分子の同定)、(2)化学放射線療法の感受性予測や耐性作用の解明、(3)1q32-41増幅領域内の他の増殖・浸潤・悪性度に関する分子の解析について計画した。(1)に関しては、胃癌根治切除連続症例142例の臨床検体を用いた免疫組織学的解析を施行したところ、SMYD2高発現群が56例(39%)、低発現群が86例(61%)で、高発現群が有意に予後不良であった(p<0.05)。(2)に関しては、7種類の胃癌細胞株パネルを用いてSMYD2蛋白発現を施行したところ、5株(71%)に過剰発現を認めた。p53変異株のHGc27株、p53正常株のNUGC4株でSMYD2特異的siRNAを導入しノックダウンしたところ、コントロールsiRNA導入と比較して、共にp21発現誘導を伴う著しい細胞増殖抑制を認め、食道癌と同様p53 independentに細胞増殖に関わることが明らかとなった。また、FACS解析でG1-S arrestを認めた。さらに、invasion assayを施行したころ著しいSMYD2ノックダウンにより著しい浸潤抑制が認められた。現在、SMYD2が制御するmicroRNA、p53以外の標的分子について、アレイを用いて網羅的に解析している。また、5-FU、CDDPに対する抗癌剤感受性分子としての機能解析を進めており近日報告する。(3)については、同領域内の癌遺伝子候補TMEM206、DTLについて詳細な解析を行っている。また、過去に開始した研究内容を、本研究課題とともに発展させた論文を3報報告し、国内外の学会にも報告予定である。
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