女性はしばしば不眠や過眠などの睡眠障害に悩まされる。その原因として、女性特有の内分泌学的変化、すなわち月経、妊娠、閉経時における卵巣ステロイドホルモンの変化が関わっている。地球上における環境は24時間の周期的な変動を示す。それが故に、生体システムとして調和した生命活動を営むには、生理機能リズムを環境と常に同調させることが不可欠となる。本研究では、卵巣ステロイドホルモンが生理機能リズムに与える影響を分子レベルから理解し、女性特有の概日リズム変化(睡眠障害)メカニズムの解明を最終目標として掲げている。本研究の具体的な研究目的である「エストロゲンが直接作用する従属振動体(エストロゲン感受性従属振動体)を同定する」ことを達成するため、まず、「免疫組織化学法による候補神経核の絞り込み」を実施した。時計遺伝子であるPER2抗体を用いABC法にて免疫組織化学を行った。その結果、候補神経核(扁桃体(Amygdala)、分界条床核(BNST)傍室傍核領域(SPZ)、室傍核(PVN)、視床下部背内側核(DMH)、視床下部内側視索前野(POA)、視床下部弓状核(ARC))においてPER2の発現リズムを検出することができた。特に、POAとARCでは、生物時計中枢である視床下部・視交叉上核(SCN)のPER2発現リズムのピーク位相から1-2時間ずれたリズム位相でPER2発現リズムを示していた。さらに、ルシフェラーゼレポーターシステムを用いた検討から、POAにおいてPER2発現リズムは、エストロゲンの影響を直接受けることがわかった。他の部位についてもこのような検討を繰り返す必要があるが、これらの結果は、視床下部内側視索前野(POA)がエストロゲン感受性従属振動体である可能性を示唆している。平成22年3月に起きた東日本大震災の影響を少なからず受け計画の実施がやや遅れてしまったが、本研究課題は無事に遂行され、女性特有の睡眠障害メカニズムの解明に寄与する結果を得ることができた。
|