研究課題
[目的]現在の感染症治療の問題点の一つに嫌気性菌に対して有用な治療薬が少なく、この特効薬は難治性感染症の一つである偽膜性大腸炎の治療薬として期待されている。このような中、北里研究所の大村らによって見出されたルミナミシン(1)はシスデカリン骨格を含む分岐型ジラクトン構造抗嫌気性菌抗生物質であり、この疾患の治療薬のリード化合物となり得ることが期待できる。加えて、1は以下に示す他に類を見ない特異な構造を有している。(1)14員環大環状ラクトン内の無水マレイン酸と共役したエノールエーテル、(2)6-6-6三環性酸素結束シスデカリン骨格、(3)これら二つのユニットを結ぶ10員環マクロラクトン、が挙げられる。申請者は、この前例のない構造の効率的かつ実用的な合成法の構築を目指す。加えて、シスデカリン部分の類似天然物の活性とは全く異なる活性を示すことに対しても、その機構の解明を目指し研究する。平成22年度は、1のフラグメント合成完了を目標に掲げていた。[結果]1を上部と下部に分解した合成計画を立案し、実験を行った。上部に関しては、これまでに無水マレイン酸に共役した14員環エノールエーテル骨格を有する天然物は1とその類縁体以外に知られておらず、新規構築法の確立が必要であった。そこで申請者は、14員環エノールエーテル骨格を構築するために、合成した両フラグメントであるビニルヨージド、ビニルスズエーテルによる分子間Stilleカップリングを行うことでマレイン酸に共役したエノールエーテル骨格の構築を達成した。一方、下部に関しては、β-ケトエステルとアルデヒドを有する3つの不斉中心を構築した後、連続的なMichael反応、aldol反応を行い、一挙にシスデカリン骨格を含む三環性化合物へと導いた。次に三環性化合物の2級水酸基のβ脱離を行った後、精製したm-CPBAを作用させることで所望の架橋エーテル体を得た。以上のように、1のフラグメント上部、下部の重要骨格であるマレイン酸に共役したエノールエーテル骨格と架橋エーテルを有するシスデカリン骨格の構築を達成できた。
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Bioorganic & Medicinal Chemistry
巻: 19 ページ: 91-101
巻: 18 ページ: 5835-5844