TRAIL(tumor necrosis factor(TNF)-related apoptosis-inducing ligand)は、TNFファミリーに属するデスリガンド(DL)の一種で、亜鉛を中心に有するホモ三量体を形成することにより、がん細胞に異常発現するデスレセプター(DR)に結合し、がん細胞選択的にアポトーシスを誘導する。従って、TRAILとDRを介するシグナル伝達経路は、副作用の少ない抗がん剤開発のための標的経路として注目されている。本研究の目的は、亜鉛とビピリジンとの1:3錯体(Zn^<2+>(bpy)_3)生成に基づくC_3対称性自己集積体の構築を特徴としたTRAIL様人工デスリガンドの創製である。本年度は、水溶液中におけるZn^<2+>(bpy)_3錯体の低安定性の改善を研究目的とし、ビピリジン骨格に疎水性相互作用部位を導入した多点相互作用型人工デスリガンドを設計・合成し、亜鉛との集積体生成評価を行った。具体的には、ビピリジンと疎水性相互作用部位として8-キノリノールをメチレン鎖で連結したリガンドを合成した。合成したリガンドに対し、亜鉛を添加した場合のUV-Vis、ESI-MS、^1H-NMRスペクトルを測定したところ、定量的な1:3錯体の生成には至らなかったものの、ビピリジンそのものと比べ、より安定な錯体を生成した。疎水性相互作用部位として、8-キノリノールを7-キノリノール、エチルベンゼン、ドデシルベンゼン、ニトロベンゼンやジオクチルアミンに置き換えたリガンドについても設計・合成し、亜鉛との集積体の評価を行ったが、8-キノリノールを有するリガンドと亜鉛との錯体の安定性改善には至らなかった。現在、ビピリジン骨格に異なる配位結合部位を導入し、亜鉛と2:3錯体の生成を期待するリガンドの設計・合成に取り組んでいる。
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