本研究は地域高齢者の心理社会的課題が影響しているとされる転倒恐怖感(fear of falling)に焦点をあて、ストレス・コーピングの視点からfear of fallingを測定する尺度を開発することを目的としている。 平成23年度は、前年度に行った転倒に対する脅威としての認知評価(転倒脅威)とfear of fallingに関する概念整理の結果から、fear of fallingは単一の概念ではなく、高齢者個々の認識の違いが複雑に影響したプロセス全体を示す概念であるという結論を導いた。このためfear of fallingをストレス・コーピングの視点から測定するためには、転倒脅威だけでなく、転倒に対する対処方略も含めた包括的なモデルを作成し、測定可能な変数を明らかにすることが必要であると考えた。このため当初の計画を修正し、fear of fallingを単一概念として測定する尺度を開発するのではなく、fear of fallingをめぐる要因間の相互関係や転倒脅威から対処方略を導くプロセスを想定したモデルを作成することを目的とした。 そこで、fear of fallingにまつわる詳細な文脈を探るために老人クラブに所属する地域在住高齢者10名を対象に転倒に対する脅威と対処方略に関する半構造化面接を行った。その結果、すでに作成した転倒脅威尺度の項目内容には一定の妥当性があることを確認し、転倒に対して明確な恐怖感が存在していなくても脅威としての認識は存在し対処行動に至るということがわかった。また、転倒に対する対処方略の形成過程には自己効力感が影響していると考えられた。これらの結果をもとに当初の仮説モデルの修正を行った。 今後はストレス・コーピングという視点からfear of fallingを解明していくために、転倒脅威と対処方略の関係性を定量的に検証していく予定である。
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