非アルコール性脂肪肝炎における線維化進展機序にマクロファージや好中球などの炎症細胞の浸潤の関与が示唆されている。線溶系因子のプラスミンは細胞外マトリックスの分解を介して、これらの細胞浸潤および活性化に重要な役割を果たしている。そこで本研究では、プラスミンの前駆体のプラスミノゲン(Plg)の遺伝子欠損マウスおよびその活性化因子のウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーター(uPA)の遺伝子欠損マウスに、NASH誘導食(メチオニン・コリン欠損(MCD)食)を与え、NASHの進展過程におけるプラスミンの役割を検討した。また、野生型マウスにMCD食を与え、その後、プラスミンの特異的阻害剤であるトラネキサム酸を2週間投与し、病態の改善効果を検討した。これらの検討から、以下の結果が得られた。 NASHを誘導したPlg欠損マウスでは野生型マウスと比較して、肝傷害の指標である血中ALT値の有意な抑制を認めた。また、組織学的解析の結果、plg欠損マウスでは、NASHに伴う線維化が抑制され、肝臓へのマクロファージの浸潤増加も著明に抑制された。さらに、炎症性サイトカインであるTNFαの肝臓での遺伝子発現増加の著明な抑制が認められた。また、NASHを誘導したuPA欠損マウスにおいても、肝傷害の抑制傾向が認められた。そして、NASHを誘導した野生型マウスにトラネキサム酸を2週間投与したところ、血中ALT値が有意に低下し、肝傷害の改善が認められた。 本研究結果より、線溶系因子プラスミンが、炎症細胞の浸潤を介してNASHの病態進展過程に深く関与していることが示唆され、その薬理的阻害がNASHの新たな治療法として有効である可能性を示した。しかし、プラスミンが本病態におけるマクロファージの浸潤および活性を亢進させる詳細な機序についてはさらなる検討が必要であると考えられる。
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