研究概要 |
<研究の目的> 口腔がんにおける発がんの責任遺伝子を明らかにするため、ヒト正常口腔粘膜上皮細胞に腫瘍原性をもたらす遺伝子(発現)異常の組み合わせをHPV陽性、陰性の場合に分けて同定する。口腔がんの悪性度と遺伝子(発現)異常の組み合わせの間の相関を明らかにし、それらの遺伝子異常を標的とした治療法の各悪性度における妥当性を検討する。 <研究実施計画> 過去の臨床検体での解析から口腔がんにおける様々ながん関連遺伝子の変異、増幅等が明らかにされており、p53,Rb遺伝子の変異は50%程度、erbB1,erbB2遺伝子はそれぞれ60%,20%程度、c-myc遺伝子は50%程度遺伝子増幅、変異していることが報告されている(Perez, B., et al. J Clin Pathol59,445-53,2006)。Hras、Kras遺伝子は欧米諸国や日本では5%程度と低頻度であるが、噛みタバコの習慣のあるインドなどの南アジアでは40%程度の口腔がんで遺伝子変異が報告されている(Sathyan, K.M., et al. Mod Pathol20,1141-8,2007)。 これらの報告を参考にしてヒト正常口腔粘膜上皮細胞にHPV16 E6E7を導入、もしくはcdk4,cyclin D1,hTERTを導入することにより不死化した。これらの細胞に口腔扁平上皮がんとの関連が示唆されている前述のがん遺伝子(erbB1もしくはHras,とcMyc)やドミナントネガティブp53をレトロウイルスを用いて遺伝子導入することにより、人為的に形質転換させることに成功した。すなわち、HPV陽性ならびに陰性の口腔扁平上皮がんのin vitro多段階発がんモデルを確立した。これらのモデルはヒト口腔扁平上皮がんで見つかる異常とがん化・がん形質の維持における意義を明らかにする上で重要な役割を果たすと考えられた。今後、口腔発がんにおけるトリガーポイントを明らかし、転移関連遺伝子・抗がん剤耐性遺伝子など、新たな分子標的候補を検索する研究をすすめていく。
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