報告書 網膜色素変性は両眼性、進行性、遺伝性の網膜変性疾患である。現在のところ有効な根本的治療は確立されておらず、成長因子の投与、遺伝子治療、人工多能性幹細由来の網膜細胞移植、人工網膜など臨床応用にむけたさまざまな基礎研究がすすめられている。 以前に我々は8週齢の野生型マウスにNADPH オキシダーゼ阻害剤を腹腔内に投与したところ、溶媒のみを投与したシャムと比べて、光傷害1週間後の視細胞を有意に保護する効果を報告した。このことから急性の視細胞変性を引き起こす光傷害モデルにおいては、NADPH オキシダーゼ阻害によって視細胞保護効果があることが示唆された。 今回、慢性の視細胞変性を引き起こすRCSラットにおいても、NADPH オキシダーゼ阻害によって視細胞保護効果が得られるかを検討した。4週齢のRCS ラットにNADPHオキシダーゼ阻害剤または溶媒のみを腹腔内に投与し、投与後4週、8週において生存している視細胞数を網膜切片における外顆粒細胞層の厚さとして評価した。残念ながら今回の実験条件下では、NADPHオキシダーゼ阻害剤を投与した群と溶媒のみを投与した群の間に、統計学的に有意な差を検出することができなかった。 視細胞の細胞死は、光傷害モデルでも、RCSラットでも、共通のメカニズムであるアポトーシスを介して行われている。一方、急性に視細胞変性が進行する光傷害モデルではロドプシンを含む細胞内シグナル伝達に依存するのに対し、慢性に進行するRCSラットではロドプシンに依存しないなど、細胞内シグナル伝達の相違も指摘されている。今回RCSラットにおいてNADPH オキシダーゼ阻害によって視細胞保護効果が確認できなかった原因としてはこれらの細胞死のメカニズムの相違や、NADPH阻害剤の投与方法が不十分であったことなどが考えられる。
|