胎盤における母子間Ca^<2+>およびMg^<2+>輸送分子を同定するために、細胞膜上においてCa^<2+>およびMg^<2+>を輸送し得るものとしてTRPチャネルファミリーに着目し、マウス胎仔の骨石灰化に合わせて胎盤における発現量が増加するものを探索した。その結果、受精後15日から18日目の妊娠終期に顕著に増加するものとしてTRPM6を同定した。In situ hybridizationおよび免疫組織染色によって、TRPM6はマウス卵黄嚢(胎盤内と外)および胎盤絨毛上皮細胞に局在していることが明らかになった。以上のことから、Ca^<2+>およびMg^<2+>を選択的に、しかも両者を同等に運ぶTRPM6が胎盤のみならず小腸や腎尿細管などの輸送上皮における細胞を通る輸送(transcellular transport)に重要な役割を果たしていることが強く示唆された。すなわち細胞間隙を通るCa^<2+>・Mg^<2+>輸送(CLDN16・CLDN19)および細胞内を通るCa^<2+>に選択的な輸送路(腎TRPV5・小腸TRPV6)とは異なる経路(TRPM6による細胞内Ca^<2+>・Mg^<2+>輸送路)が存在する可能性が考えられる。今後、同経路が実際に胎盤絨毛細胞のCa^<2+>・Mg^<2+>輸送のうち何割を占めるのかを細胞を用いて解析するとともに、TRPM6阻害剤を用いたin vivoの解析によって同経路が体内Ca・Mgの恒常性維持にどの程度重要なのか、またTRPM6の機能異常が妊娠高血圧症の発症に関与するかを明らかにしたい。
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