近年では、人工多能性幹細胞研究の発展とともに、細胞移植療法への関心がますます高まっている。高齢化を迎えた日本において、加齢に伴う機能低下は重要な問題の一つである。心疾患治療などに幹細胞移植療法を行うことには大きな期待がよせられるが、心臓を始めとする多くの主要臓器では特異的な表面マーカーが同定されておらず、細胞移植に最適な細胞の選定が困難な状況にある。臨床で行われる細胞移植療法は自家移植あるいは同種移植となるが、ヒトに近い中大動物において特性評価された幹細胞はほとんど存在しない。そのため、正確な細胞および機能評価を目的として、ブタの羊膜や胎盤由来細胞を樹立し、心筋分化誘導法の検討・特性評価などを実施してきた。本年度は、ブタの胎児付着物を含む胎児性細胞(羊膜、胎盤、臍帯)から樹立した細胞の詳細な特性評価を中心とし、ヒト由来細胞との比較解析を行った。 昨年度に樹立した間葉系幹細胞マーカーを発現していた各々の細胞は、樹立法によらずその発現は安定していた。そして、臨床応用を視野にヒトの羊膜由来細胞との比較解析を実施したところ、ヒトとブタでは同様の間葉系幹細胞マーカーが発現していた。また、本研究で用いたブタ細胞はEGFP-トランスジェニックブタ組織由来であり、樹立後に回収した細胞自体は緑色に光っていることが目視で確認できた。EGFPをマーカーとした未分化細胞(1x10^<6-7> cells)を心不全モデルブタへ移植し、のちにホルマリン固定した組織検体の評価を行ったところ、EGFP陽性細胞の組織への生着が確認できた。このことから、同種の幹細胞移植は個体への負担を軽減し、組織改善への有効性を示唆した。これらは、細胞移植療法などの臨床応用への基盤確立へ有用な役割を果たすといえる。
|