【研究目的】Asparagine synthetase (Asns)は肝細胞内での糖代謝、およびマウスの血糖調節に関与する可能性がこれまでの実験結果から示唆されている。本研究は肝細胞においてAsnsと、糖代謝及びインスリンシグナルに関わる遺伝子群との相互作用メカニズムを明らかにすることを目的としている。 【研究方法】マウス肝細胞由来Hapel-6細胞を用いて、Asns遺伝子の発現が亢進する低グルコース培養条件下(5、10mM)でAsns遺伝子ノックダウン実験を行った。リポフェクション法を用いてHepal-6細胞にAsnsに対するsiRNAを導入し12時間培養後、培地を5、10、25mMのグルコース含有培地に置換しさらに24時間培養した。各培養条件におけるGlucokinase (GCK)の遺伝子発現変動をリアルタイムPCR法で定量し(研究実施計画・実験(1))、GCKの蛋白量およびインスリンシグナル伝達系の主要因子であるAkt、JNKのリン酸化蛋白量の変化をウエスタンブロッティング法で検出した(研究実施計画・実験(2))。 【研究成果】Asnsのノックダウン効率は平均して約54%であった。現在までのところ、いずれの実験条件においてもGCKの安定した遺伝子発現定量の結果は得られていない。その理由としてHepal-6細胞ではGCKの発現量が低いことが考えられる。同様にGCK蛋白量についても各実験条件の間で変化は見られていない。一方、Asnsノックダウン時の低グルコース培養条件においてリン酸化Akt蛋白量が増加し、また低グルコース培養条件単独でリン酸化JNK蛋白量を増加させる可能性のあることが、ウエスタンブロッティング法による実験結果から示唆された。この結果は、細胞中のAsns蛋白量や培地中のグルコース濃度の変化がAktとJNKのリン酸化調節に影響を及ぼす可能性を示すものである。現在までにAsns遺伝子が肝臓でのインスリンシグナル伝達に関与するとの報告はなく、今回の実験結果はAsns遺伝子と糖代謝やインスリン抵抗性との関わりを考える上で、新規かつ重要な知見である。今後は、実験の再現性や条件を詳細に検討して研究を進める予定である。
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