本研究ではハンチントン病の症状のひとつである精神障害の発現機構を解明するために、家族性の統合失調症を含む精神障害に関与するDISC1とハンチントン病の原因蛋白質ハンチンチンとの共凝集性および凝集体形成が神経細胞に及ぼす影響を調べた。DISC1はアミロイド様の凝集体を形成するが、ハンチンチン凝集体を種として加えると凝集性が著しく加速することが明らかになった。DISC1凝集体の凝集性は、種として加えるハンチンチン蛋白質に含まれるポリグルタミン鎖の長さや凝集体の構造に依存していることが明らかになった。さらにDISC1凝集体の構造は、種として加えたハンチンチン凝集体の構造に依存していることが分光法から明らかになった。これらの結果より、ハンチントン病患者脳において異常ハンチンチン蛋白質が凝集する過程でDISC1の凝集性が上昇し、本来の機能の喪失が示唆される。ハンチントン病のモデルマウスR6/2の脳において、DISC1が凝集し難溶性を示していることをフィルタートラップ法から明らかにした。同様に、ハンチントン病患者脳においてもDISC1が凝集していることを明らかにした。精神障害を引き起こす分子機序を解明するために、神経の発達に重要なDISC1結合蛋白質であるPDE4について研究を行った。培養細胞にハンチンチンとDISC1、PDE4を発現させると、異常ハンチンチンとPDE4との結合が低下していることが、免疫沈降実験により明らかになった。ハンチントン病モデルマウス脳におけるPDE4の活性は野生型に比べて高く、さらにその活性は週齢依存的に増加傾向を示すことが分かった。以上から、ハンチンチンとDISC1の共凝集によるPDE4活性の増加が、ハンチントン病において精神障害を発現させている可能性が示唆された。
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