本研究では,2022年4月のSzabo氏の来日前から定期的に研究の打ち合わせを行っていたが,2022年4月の来日以降,本格的な研究を開始した。研究では,自然言語処理・深層学習の専門家であるSzabo氏と,認知言語学・構文文法の専門家である申請者とが,大規模コーパスを用いて,ハンガリー語,英語,日本語等の否定表現を対照的に研究することで,否定表現の振る舞いを記述し,歴史的な極性の反転や変化の考察を行った。Szabo氏は主に,ハンガリー語のデータの構築と,先行研究の精査,論文の主な執筆を行った。一方,受け入れ研究者の大谷は,コーパスを用いた日本語のデータの構築と,日本語とハンガリー語の現象の比較結果を言語学的に論じる作業を担当した。成果の一端については,2022年11月に行われた日本語用論学会では発表を行った。また,日本語用論学会の終了後には,研究発表の内容を発展させ,コーパス実験の追加や,先行研究の精査を行い,研究内容をまとめた論文を執筆し,学会が監修する,研究大会のプロシーディングズに掲載をした。 さらに,日本語の「やばい」とハンガリー語のdurvaという自己対義語の対照研究を拡大し,自己対義語という,通言語的に珍しい現象を体系的に分析するための方法論と,理論に関する検討を重ね,価値付与の反転の動機づけに関する考察を行った。本研究のような研究は,研究例が少ない日本語とハンガリー語の比較対照である点,認知言語学,語用論,コーパス言語学,NLPを統合した学際的な見地から言語分析を行っている点,自己対義語という理論的に多くの示唆を与える現象を扱っている点で意義があると言える。
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