ヒ素による健康影響として、皮膚がん・肺がんの発症が指摘されてきたが、近年、ヒ素の低濃度の慢性曝露により、心血管疾患が増加することが報告されている。ヒ素は、主に過剰な活性酸素種の産生、抗酸化システムの破壊およびアポトーシス細胞死によって血管内皮機能障害をもたらすため、酸化ストレス応答転写因子がヒ素による血管内皮障害に重要な役割を果たす可能性が考えられるが、その調節機構は充分に把握されていない。本研究は、ヒ素による血管内皮障害に関与する分子メカニズムを明らかにし、その調節機構における酸化ストレスとレニン‐アンギオテンシン系(RAS)の役割を解明することを目的とした。野生型マウスにヒ素(NaAsO2)を投与したところ、低濃度でも有意に血圧が上昇し、酸化ストレスマーカー値も増加した。また、ヒ素を投与した血管内皮細胞で、ACE2とMasR発現の低下も確認された。本研究により、ヒ素による血圧の上昇は、酸化ストレスを介したACE2発現の減少によるRASの血管保護作用軸の抑制が部分的に関与している可能性が示唆された。
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