今年度は、当初の計画通り、『令集解』に引用された儒教義疏を網羅的に収集し、その種類や引用箇所を整理・分析した。その結果、『令集解』「古記」(奈良期の律令注釈書)には、梁・皇侃『礼記疏』(『礼記子本疏義』)、隋・劉炫『尚書述議』『春秋述議』の引用があったことを明らかにした。それによって、『五経正義』が伝来する前に、すでに儒教の義疏は受容されたことがわかった。今後は、「古記」に引用された儒教義疏と飛鳥・奈良期の学問制度との関係について論文にまとめ、公刊する予定である。また、『令集解』のほか、『弘決外典鈔』『中観論疏記』などの日本撰述注釈書に引用された儒教義疏についても、初歩的な調査・収集を行った。 また、唐と日本の教育制度との関係について、現存する博士家関係の古写本を調査し、その書き入れと奥書を分析した。博士家の「証本」の書写文化が唐の科挙制度との関係の一部を解明し、5月に開かれた京都大学人文科学研究所が主催する共同研究班の会議でその研究成果を発表した。 また、義疏と類書の関係を解明するために、中古期の類書、特に敦煌や日本で発見されたものを調査・収集した。その結果、類書から「詩義疏」以外の義疏の引用を見つけることがほぼできなかった。このことから、『令集解』に引用された儒教義疏は類書からの孫引きではないことが分かった。この成果について、11月に早稲田大学で開催された国際会議で発表した。 以上の調査の過程で、六朝隋唐期における義疏の形成・発展について新たな知見を得た。博士論文の一部を補足・修正した上で、「義疏概念の形成と確立」と題する論文にまとめ、12月に出版された『東方学報』に掲載した。 今回、外国人特別研究員の就職に伴い、助成事業は中途終了となるが、日本古代における儒教義疏の受容について、日本に現存する義疏の古写本と日本撰述注釈書との関係を中心に考察を進めていく予定である。
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