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2023 年度 実績報告書

仏教学・心理学・脳科学の協同による止観の総合的研究

研究課題

研究課題/領域番号 22H00001
研究機関東京大学

研究代表者

蓑輪 顕量  東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (30261134)

研究分担者 林 隆嗣  こども教育宝仙大学, こども教育学部, 教授 (00322975)
柳 幹康  東京大学, 東洋文化研究所, 准教授 (10779284)
今水 寛  東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (30395123)
山部 能宜  早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40222377)
浅井 智久  株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 主任研究員 (50712014)
越川 房子  早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80234748)
佐久間 秀範  筑波大学, 人文社会系(名誉教授), 名誉教授 (90225839)
熊野 宏昭  早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (90280875)
藤野 正寛  日本電信電話株式会社NTTコミュニケーション科学基礎研究所, 人間情報研究部, リサーチスペシャリスト (90850743)
余 新星  花園大学, 文学部, 准教授 (40982921)
研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2027-03-31
キーワード心一境性 / vitarka / vicaara / マインドフルネス特性 / 呼吸瞑想 / 心の拡張性 / EEGダイナミクス解析 / 海馬
研究実績の概要

瞑想の進展に関して心が一つの対象に結びつき、やがて対象を捉えるために心を入れ込んで動かす思考作用(尋)と穏やかに対象を確認していく作業(伺)が生じる段階があると位置づけていることが分かった。また本年のスリランカの現地調査から、瞑想の進展として心一境性から始まり、一つの対象を十分に把握する段階へ、そして尋や伺の働きが不安定に生じる段階(近行定)から安定的に生じる段階(初禅)に入ると認識していることが分かった。そして、現地調査から安定的に尋や伺の生じる段階に至った時には、観察の対象を増やしていく方向性に切り替えて実践を続けると、心の拡張性が抑制されるようになり、さらには捉まえる心の働きと捉まえられているものとに分離することができれば、名色分離智に始まる智慧が生じる段階になると捉えていることが分かった。
心理班の研究では心一境性の確立のために言語活動がどのように影響を与えるのかという視点から考察を行い、マインドフルネス呼吸瞑想を媒介に被験者を3群に分け心理実験を行った。その結果、初学者にとっては体験の言語化や感情の言語的ラベリングが効果的な傾向にあることが示された。またうつ症状や不安症状をもつ学生を4群に分けてマインドフルネスとセルフコンパッションの介入実験を行い、両者を同時に行うことで相乗効果が見られることが分かった。
脳科学班の研究では心が一つの対象に向くことの機序を探り、自然な呼吸に意識を向けると呼吸が不自然になる現象に着目し安静時と観察時の呼吸変動のパターンを測定しマインドフルネス特性の質問紙との結果に相関性のあることを見いだした。またオープンデータを用いて脳活動のEEGダイナミクス解析を行い、瞑想時の状態ダイナミクスとしての計測の可能性を模索する研究を進めた。swORETAという計測方法を用いて不安時に左角回や左海馬の活動低下が生じることを見いだした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

瞑想がどのような段階を踏んで深まっていくのか上座仏教、大乗仏教の伝統の中で予測し、それを推測する質問紙の作成に取りかかることを目標としたが、実際の瞑想の推移が、単に心が静まっていくことを瞑想の深まりとすると、仏教の瞑想伝統の半分に過ぎないことが確認された。瞑想の体系は、心の働き全般が静まるもの、心の拡張性を抑制するもの、智慧を得るものと大きく三区分する必要があることが見いだされた。ところが、仏典の中の記述は、経典ではとても簡単に瞑想のやり方が示されているに過ぎず、論点では逆にあまりにも細かく説明されすぎており、どれが画期になる状態なのか、判断がつきにくくなってしまった。また、大きく三つに区分される瞑想が、実際にどのように実習され、どのように関連しているのか考慮する必要も生じた。
この解決に役だったのが現地調査であったが、現在の瞑想研究を取り巻く科学的研究状況に鑑みると、瞑想の進み具合を推測する質問紙の作成は重要であるが、十分ではないことに思いが至った。質問紙と同時に生体データと関連づけて、瞑想の進展具合を推測する必要性があるのではないかとの思いが生じるに至った次第である。具体的な方策は、心理学や脳科学分野の先生方とさらに方法論を詰めていく必要性が生じることになった。これらのことが原因となり、当初の計画よりも若干、遅れ気味であると言わざるを得ない。

今後の研究の推進方策

仏教班は瞑想の段階を心の働きの全般的沈静化、心の拡張性の抑制、智慧の獲得という三つに分かれることを考慮しながら、パーリ語文献、大乗の経論の中に如何に心の変化が記述されているのかを継続して探る。その際に『瑜伽師地論』の記述やアーラヤ識の実践的性格には特に注意を払う。また東アジア世界(日本を含む)の天台や禅宗の伝統のなかにも階梯を踏まえたと推定される記述に焦点を宛て、それぞれの段階の境地を確認するための質問項目原案を作成する。特に第二の類型の心の拡張性が抑制された状態をどのような判断基準をもって推測するのかは、広く東アジアで成立した注釈文献にも考察範囲を広める。また仏教班の中でも特定の瞑想に対するEEGを用いた脳波測定を行い、文献上の記述と得られるデータの特徴の把握に努め、その関連性を探る。
次に心理学班では集中型とオープンモニタリング瞑想に焦点を当て、客観的効果、主観的効果、内観報告に基づくデータを比較し質問項目を作成し、仏教班の作成する項目案と合わせて修行階梯を測定する心理尺度の作成を行う。脳科学班では認知フュージョンに注目し、心が一つの対象に結びつきやすくなるのを妨げる「体験の回避」の働く部位を特定することを目指す。またEEGのオープンデータを用いての活動の状態遷移ダイナミクスを解析し、瞑想者と非瞑想者の違い、及び瞑想時と安静時に違い及び習熟レベルに相当する指標があり得るのか検討を開始する。また心の拡張性(心の自動思考)が抑制されることに関しては、神経科学の枠組みであるトップダウン処理とボトムアップ処理との観点から解釈が可能であるという仮説を立てて心理実験の可能性を探る。また瞑想時の呼吸変動と心的変動の測定からありのままに気づくことのバイオマーカーの開発を進め、心の拡張性の抑制に繋がる因子の妥当性を検証する。

  • 研究成果

    (33件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 4件、 招待講演 9件) 図書 (2件)

  • [雑誌論文] タイランド・仏教瞑想調査記2024

    • 著者名/発表者名
      蓑輪顕量
    • 雑誌名

      仏教文化

      巻: 62 ページ: 76-104

  • [雑誌論文] 瞑想中の思惟作用について―上座部仏教における尋(vitakka)・伺(vicAra)の区別―2024

    • 著者名/発表者名
      林隆嗣
    • 雑誌名

      こども教育宝仙大学紀要

      巻: 15 ページ: 11-24

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 修行者達の転依思想2023

    • 著者名/発表者名
      佐久間秀範
    • 雑誌名

      駒澤大学佛教学部論集

      巻: 54 ページ: 448-417

  • [雑誌論文] nAmanとpadaとvyaNjanaと声と字と実相2023

    • 著者名/発表者名
      佐久間秀範
    • 雑誌名

      豊山学報

      巻: 66 ページ: 730-709

  • [雑誌論文] 『宗鏡録』と「宗教」の語2023

    • 著者名/発表者名
      柳幹康
    • 雑誌名

      印度学佛教学研究

      巻: 72(1) ページ: 241-235

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Hakuin’s system of practice and its background2023

    • 著者名/発表者名
      Mikiyasu YANAGI, Trans. Bo HUAN
    • 雑誌名

      Studies in Chinese Religions

      巻: 9(2) ページ: 193-223

  • [雑誌論文] 達磨宗・仏地房覚晏『心根決疑章』訓註(下)2023

    • 著者名/発表者名
      舘 隆志, 吉村 誠, 師 茂樹, 山口 弘江, 柳 幹康
    • 雑誌名

      駒澤大学仏教学部論集

      巻: 54 ページ: 141-170

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] 白隠的実践体系及其背景2023

    • 著者名/発表者名
      柳 幹康、李銘佳訳
    • 雑誌名

      華林国際仏学学刊

      巻: 6(1) ページ: 221-271

    • オープンアクセス
  • [雑誌論文] Effect of a Mindfulness-Based Intervention on Self-Compassionate Behaviors: A Randomized Controlled Trial2023

    • 著者名/発表者名
      Uchida Taro、Takahashi Toru、Sugiyama Fukiko、Kikai Tomoki、Nitta Yusuke、Kumano Hiroaki
    • 雑誌名

      Psychological Reports

      巻: 126 ページ: 2757~2788

    • DOI

      10.1177/00332941221080410

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 簡易的な集中瞑想・洞察瞑想がオンライン面接における社交不安に及ぼす影響の予備的研究2023

    • 著者名/発表者名
      石川 遥至、伊藤 汰一、酒井 七恵、阿部 哲理、今城 希望、牟田 季純、越川 房子
    • 雑誌名

      マインドフルネス研究

      巻: 8(1) ページ: 1ー15

    • DOI

      10.51061/jjm.81_1

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Development of a Biomarker for Mindfulness Trait Using Respiratory Variability:Attending to Natural Breathing Alters Respiratory Patterns.2024

    • 著者名/発表者名
      藤野正寛
    • 学会等名
      Symposium “Breathing and emotion-cognition: New Insights from neuroscience and psychology,”. The 101st Annual Meeting of The Physiological Society of Japan.
  • [学会発表] デフォルトモードネットワークと自発脳活動・瞑想2024

    • 著者名/発表者名
      今水寛
    • 学会等名
      日本心理学会・認定心理士の会・勁草書房 新刊連動講座『マインドワンダリング』
    • 招待講演
  • [学会発表] 自己と主体性2024

    • 著者名/発表者名
      今水寛
    • 学会等名
      第9回人工物工学コロキウム:心を豊かにする工学を考える
    • 招待講演
  • [学会発表] 仏教瞑想の歴史とその展開―その階梯(念処・止観)と方法2023

    • 著者名/発表者名
      蓑輪顕量
    • 学会等名
      日本マインドフルネス学会・第10会大会
    • 招待講演
  • [学会発表] アーラヤ識説と禅定実践の関係についてー特に身心論の問題に着目して2023

    • 著者名/発表者名
      山部能宜
    • 学会等名
      韓国仏教学会50周年記念学術大会
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 大慧宗杲的悟之結構2023

    • 著者名/発表者名
      柳幹康
    • 学会等名
      円悟克勤禅師与仏教中国化学術研討会
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 禅の悟りとその先:ともになりゆく道2023

    • 著者名/発表者名
      柳幹康
    • 学会等名
      EAA藝文学研究会シンポジウム「ともに成り行く道、ともに花する世界:東アジアから考えるHuman Co-becomingとHuman Co-flowering
  • [学会発表] 「看話禅」的成立与展開:従大慧宗杲到白隠慧鶴2023

    • 著者名/発表者名
      柳幹康
    • 学会等名
      「東亜文化交流視域下的思想、文化与宗教」国際学術研討会
    • 国際学会
  • [学会発表] 看話禅の展開:大慧宗杲と白隠慧鶴を中心として2023

    • 著者名/発表者名
      柳幹康
    • 学会等名
      日本宗教学会第82回学術大会
  • [学会発表] 『宗鏡録』と「宗教」の語2023

    • 著者名/発表者名
      柳幹康
    • 学会等名
      日本印度学仏教学会第74回学術大会
  • [学会発表] Locating Hakuin Ekaku in the History of Zen Buddhism2023

    • 著者名/発表者名
      Mikiyasu YANAGI
    • 学会等名
      17th International Conference of the European Association for Japanese Studies (EAJS)
    • 国際学会
  • [学会発表] 智慧へのアプローチ:一気か徐々か2023

    • 著者名/発表者名
      余新星
    • 学会等名
      日本マインドフルネス学会第10回大会
    • 招待講演
  • [学会発表] 脳と心2023

    • 著者名/発表者名
      浅井智久
    • 学会等名
      日本マインドフルネス学会第10回大会シンポジウム
    • 招待講演
  • [学会発表] 認知機能と脳のネットワーク2023

    • 著者名/発表者名
      今水寛
    • 学会等名
      神経疾患講演会「Movement Disorders Conference」
    • 招待講演
  • [学会発表] 人間の適応・学習機構の解明と応用2023

    • 著者名/発表者名
      今水寛
    • 学会等名
      ATRオープンハウス2023 テーマ講演
    • 招待講演
  • [学会発表] 神経画像・心理実験・計算理論の融合によるヒト適応メカニズムの探求2023

    • 著者名/発表者名
      今水寛
    • 学会等名
      第46回日本神経科学大会 時実利彦記念賞受賞記念講演
  • [学会発表] MBCT-CPの効果に関連する要因の検討-内受容感覚の高低と痛み関連要因-2023

    • 著者名/発表者名
      越川房子・牟田季純・石川遥至・阿部哲理・今城希望・細井玲奈、伊藤悦朗
    • 学会等名
      日本心理学会第87回大会
  • [学会発表] 1回の3ステップ呼吸空間法実践による気分状態の改善2023

    • 著者名/発表者名
      今城希望・阪口茉南佳・阿部哲理・石川遥至・越川房子
    • 学会等名
      日本マインドフルネス学会第10回大会
  • [学会発表] 異なる2種類の瞑想教示とその効果(1)-主観的幸福感と 6 因子マインドフルネス尺度に着目して-2023

    • 著者名/発表者名
      三原里佳子・阿部哲理・平野元也・今城希望・石川遥至・越川房子
    • 学会等名
      日本マインドフルネス学会第10回大会
  • [学会発表] 異なる2種類の瞑想教示のその効果(2)-社交不安と特性不安に着目して-2023

    • 著者名/発表者名
      平野元也・三原里佳子・阿部哲理・今城希望・石川遥至・越川房子
    • 学会等名
      日本マインドフルネス学会第10回大会
  • [学会発表] 異なる2種類の瞑想教示とその効果(3)-瞑想体験の自由記述に着目して-2023

    • 著者名/発表者名
      阿部哲理・平野元也・三原里佳子・今城希望・石川遥至・越川房子
    • 学会等名
      日本マインドフルネス学会第10回大会
  • [図書] 重田みち編『「日本の伝統文化」を問い直す』2024

    • 著者名/発表者名
      柳幹康
    • 総ページ数
      512
    • 出版者
      臨川書店
    • ISBN
      978-4653045687
  • [図書] 修行者達の唯識思想2023

    • 著者名/発表者名
      佐久間秀範
    • 総ページ数
      384
    • 出版者
      春秋社
    • ISBN
      978-4-393-13459-7

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公開日: 2024-12-25  

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