研究課題/領域番号 |
22H00036
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
慶田 勝彦 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 教授 (10195620)
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研究分担者 |
眞島 一郎 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10251563)
香室 結美 熊本大学, 文書館, 特任助教 (40806410)
松田 素二 総合地球環境学研究所, 研究部, 特任教授 (50173852)
棚橋 訓 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50217098)
向井 良人 熊本保健科学大学, 保健科学部, 准教授 (50315280)
下田 健太郎 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部附属国際人文社会科学研究センター, 准教授 (90823865)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 水俣病事件 / 文化人類学 / 他者の痛み / 交差性 / 水俣病研究会 / 裁判闘争 |
研究実績の概要 |
2022年度は、<水俣病>事件資料アーカイブズ構築に関して関西訴訟を中心とした裁判関係資料の見直しや<水俣病>事件の人類学的展開について再検討する必要が生じたため、繰越し制度を利用した。制度利用の効果もあり、当初、予定していた作業はほぼ遂行することができた。第一に、熊本大学文書館(香室:分担者)を拠点とした<水俣病>事件資料アーカイブズ構築作業は順調に進展し、さらには収集、整理した所蔵資料を活用した展示会や講演会などを3回開催することができ、本アーカイブズ研究が新たな地域、社会連携へと展開してゆく可能性を具体的に示したのは大きな成果となった。第二に、水俣病研究会資料については向井(研究分担者)を中心に、研究会メンバーの富樫、有馬と連携しながら、関西訴訟、さらには現在進行中のノーモアミナマタ裁判の法的論理に関する研究を推進した。これらの作業は、研究会が重要な役割を果たした第一次訴訟判決(1973年3月原告勝訴)の50年後の歴史化作業にもつながった。土本典昭資料(下田:分担者)については有馬所蔵の土本映画に関係している音声資料(マザーテープ)を中心にその価値の検証および今後のデジタル化を含むアーカイブズ作業を予定通りに遂行した。<水俣病>事件の人類学的展開において、研究分担者の松田、真島、棚橋および代表者の慶田は、アイヌ民族に関する日本文化人類学会倫理委員会の特別シンポジウムに積極的に関与し、「他者の痛み」の交差性についての理論と実践への理解を深めた。当初計画していたユージン&アイリーン・スミスと沖縄の写真家との比較研究を含んだ論集刊行プロジェクトは研究協力者の飯島力を中心に若手研究者の国際共同研究への展開を目指す構想として再編された。また、韓国釜山にある東義大学校・東亜細亜研究所との研究交流は強化され、特に若手研究者の交流を促進している点は特筆しておきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繰越分の予算執行を含め、本研究課題は概ね順調に進展している。第一に、<水俣病>事件資料のアーカイブズ構築は予定通りに進んでおり、また、所蔵資料への学内外の関心も高まってきているからである。さらに、熊本大学文書館所蔵の<水俣病>事件関係資料を活用した展示会、講演会は期待以上に評価され、新たな地域、社会連携の可能性を示したのも大きな成果だった。第二に、「他者の痛み」を媒介とした<水俣病>事件の人類学的展開について、水俣病研究会を重要なアクターとし、特に研究会設置当初の水俣病第一次訴訟において法理論面から原告勝訴を支えたとされる報告書『水俣病にたいする企業の責任ーチッソの不法行為』(水俣病研究会編、1970)の再検討が、関西訴訟をはじめとして現在に続く裁判闘争を読み解くために必要であることを明確に認識することができたのも収穫だった。第三に、若手研究者を中心とした国際的研究は研究分担者2名(下田・香室)と研究協力者(飯島)の翻訳本刊行計画が科研費出版助成を獲得するなど順調であり、また、韓国釜山の東義大学校・東亜細亜研究所との研究交流も活発化している。沖縄の写真家との比較を含んだユージン&アイリーン・スミス関係のプロジェクトも国際的な研究へと発展するように再編され、新たな準備に入ったのも成果のひとつである。
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今後の研究の推進方策 |
<水俣病>事件研究アーカイブズ構築作業は最終年度まで継続的に実施する予定であるが、今回の研究成果を踏まえ、今後の<水俣病>事件と「他者の痛み」の交差性について、本研究課題では水俣病研究会および水俣病第一次訴訟を多元的に歴史化する作業に着手し、研究を発展させてゆく方向性が見えてきた。その際、理論的にはフランクフルト学派の第一世代、特にアドルノとベンヤミンの仕事、ならびに批判的人類学との交差性(M.タウシグやJ.クリフォードなど)を焦点化した研究を推進する方向性が明確になってきた。2023年度、2024年度は水俣病研究会編『水俣病にたいする企業の責任ーチッソの不法行為』(1970)の多元的な読み直し作業を熊本大学文書館所蔵の水俣病研究会資料を活用して行い、論集等の刊行計画を具体化的に進展させる。また、関西訴訟、そして現在進行中のノーモアミナマタ訴訟についても水俣病研究会と連携した研究を推進する。将来的には<水俣病>事件の法人類学あるいは医療人類学的研究への展開を意識しながら<水俣病>裁判闘争を歴史化すると同時に今後の動向に注視する。若手研究者を中心とした国際共同研究の発展的展開にもとりくみ、現在までに構築された韓国との研究交流を日韓米など、欧米の研究者を含む共同研究への発展性を探求する。その際、国際的にも認知されている「水俣条約」を重視し、国際的な環境破壊とメチル水銀中毒問題を意識した環境人類学的な展開を視野にいれた活動を行う。欧米の人類学や隣接諸科学においても現代の環境汚染、環境破壊への関心は高く、メチル水銀中毒の大規模な被害を経験している<水俣病>事件はこれらの研究にとって重要な参照点を提供すると確信している。また、COVID-19パンデミックは「疫学」への関心とその重要性の認識を高めた。<水俣病>事件の解明においても「疫学」や公衆衛生からのアプローチは重要になる。
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備考 |
本研究課題に関する研究分担者、協力者の業績等は各人のresearchmapを利用している。
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