研究課題
研究開始初年度においては、中性子散乱研究において種々の磁性体の磁気対称性決定に関する予備的研究とそこから必要な検出器性能の確定およびその開発を行なった。前者に関しては、高圧合成 Cu2OSeO3 や六方晶量子磁性体 CeVGe3、さらにはシャストレーサザーランド型格子を有する Ce2Pd2Pb 等の磁気回折研究を行なった。これらの結果から、必要な検出器性能の評価を行い、最終的に大立体角を連続的にカバーすることのできる二次元検出器が必要であるとの結論に至った。そこで、協力研究者である木村の協力を得て二次元検出器の開発に着手した。国内(東北大、東大、KEK)のみならず欧州、豪州および韓国の中性子専門家の助力を得て、最終的に二次元検出器での中性子検出に成功した。加えて、量子もつれが発散する量子臨界相が磁化容易軸への磁場で誘起されるS = 1/2 Ising型反強磁性体CsCoCl3の強磁場ESR測定を行い、量子臨界相特有の磁気励起状態であるストリング励起の観測に成功した。理論研究の成果としては、中性子実験から得られるスピン構造を再現するための有効スピン模型構築を行った。特に空間反転対称性を有する磁気スキルミオン物質GdRu2Si2およびEuAl4が示す磁気相図を再現することで、前者においては高次のスピン間相互作用が重要な役割を示すこと、後者においては波数空間における相互作用のフラストレーション効果が重要な役割を示すことを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
初年度の計画として最も大きな目標であったものは磁気対称性決定に供するための中性子検出器の開発であった。これが種々の困難を乗り越え中性子検出に至ったことは大きな進展であり、一つのマイルストーンを達成したと考えている。また、異なる結晶対称性を持つバラエティに富んだ磁性体の磁気回折実験を行い種々の磁気対称性の決定を行うことに成功したこと、さらに、その経験から、磁気対称性の高効率決定に必要な検出器性能の見積もりを具体的に行うことができたことも大きな成果であると言える。この結果、当初の計画にあった一次元量子もつれの中性子散乱による測定手法検証に多少の遅延があるが、これは当初の研究計画における実験計画が多少前後しただけであり、また量子磁性研究においては電磁波分光で格段の成果が得られていることを考えると大きな問題ではないと判断される。理論研究からは有効スピン模型構築に大きな進展が得られておりこちらも順調に進展していると判断される。
二次元検出器に関しては、中性子検出における位置精度やその検出効率等に関してさらなる開発研究を進めるとともに、遮蔽性能や現在のビームラインにおけるバックグラウンド分布等を考慮した検出器設置法を確立し、実際のデータ取得に供する。この中で、データ取得・解析方法等に関しても最新の統計解析技法を応用することでさらなる高効率化および低ノイズ化を測る。磁気対称性決定に関しては初年度で得られた種々の回折データの解析を進めるとともに、対称性だけでなく実際の磁気構造を決定する。ここでこれまで開発してきた表現論に基づく磁気構造解析手法、中でも実際の解析コードをさらに高度化するとともに、その応用範囲を広げる。電磁波分光に関しては、S = 1/2 Ising型反強磁性体の磁化容易軸に垂直に磁場を加え、このとき現れる量子臨界点に向かう磁気励起状態の変化をCsCoCl3の強磁場ESR測定によって調べる。理論的研究に関してはこれまでの研究成果に基づき、磁気スキルミオンを始めとするトポロジカルスピン構造を安定化する微視的ハミルトニアンをより効率的に求めるために、機械学習を利用した手法を開発する。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 11件、 招待講演 10件)
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