研究課題/領域番号 |
22H00112
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研究機関 | 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所 |
研究代表者 |
橋坂 昌幸 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 特別研究員 (80550649)
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研究分担者 |
熊田 倫雄 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 特別研究員 (30393771)
伊與田 英輝 東海大学, 理学部, 講師 (50725851)
秋保 貴史 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子科学イノベーション研究部, 研究主任 (50786978)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 分数量子ホール効果 / エニオン統計 / トポロジカル量子計算 |
研究実績の概要 |
本課題「量子ホールエニオン操作のためのトポロジカル量子技術」では、研究期間終了後も含めた長期目標として「分数量子ホール準粒子のエニオン統計を利用したトポロジカル量子ビットの作製」を設定する。この目標に向けて、研究期間中には、第一に基本デバイスである単一エニオン源およびエニオン量子干渉計の作製、第二にエニオンのダイナミクス制御に利用する高速電荷パルス生成技術の確立、第三に非可換エニオンを発現する高品質半導体ヘテロ構造の作製、第四にエニオン制御システムのアーキテクチャ提案を目指す。 令和4年度は本課題の初年度であるため、計画全体の基礎をなすトピックについて研究に取り組んだ。エニオン検出の基本デバイスとして、並走エッジ状態を用いたMach-Zehnder干渉計を検討している。まず並走する整数エッジ状態を用いて干渉計を作製し、量子干渉の観測に成功した。また、並走エッジ状態を用いる場合特有のデコヒーレンス機構を実験で発見した。このデコヒーレンス機構を詳細に調べるための理論解析を行い、実験結果を定性的に説明することが可能になった。今後は定量的な評価を進める。 単一エニオン源の作製に向けて、時短電圧パルス生成技術の開発に取り組んだ。テラヘルツ導波路に埋め込まれたグラフェンに対して2ps程度の時間幅のパルス生成に成功し、さらにグラフェン中を伝播する信号の速度制御にも成功した。 非可換エニオンの観測に向けて、半導体試料の高品質化にも取り組んだ。MBE結晶成長環境の改善により移動度500万cm^2/Vs程度の高品質試料を得ることができ、非可換エニオンの観測に向けて大きく前進した。 エッジ状態を伝播するエニオンによる量子ビット作製に向けて、バルク領域におけるエニオンとエッジを伝播するエニオンの関連を理論的に調べ、エッジ状態を用いるアーキテクチャの妥当性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に沿って研究を進めた結果、順調に成果が得られた。 分数量子ホール系に先立ち、整数量子ホール系の並走エッジチャネルを利用したMach-Zehnder干渉計の量子干渉を観測した。干渉パターンのバイアス電圧依存性から、従来型の干渉計と異なる、エッジ状態間のクーロン相互作用と意図しないトンネル効果に起因するデコヒーレンス機構を発見した(橋坂)。さらに、このデコヒーレンス機構を定量的に解析するための理論計算を行った(伊與田)。並走エッジ状態の相互作用の非対称性が大きくなるとデコヒーレンスが起こり、ローブ型の振動構造が見られることが分かった。 テラヘルツ導波路にグラフェンを埋め込み、電流パルス入射によるプラズモン波束励起・伝播・検出する実験を行った。独自に開発したオンチップテラヘルツ分光計を用いることで、時間幅2 psという超短プラズモンパルスの時間ドメイン測定(分解能1ps以下)に成功した。さらにグラフェン電荷密度変調等により、プラズモン伝播速度の制御に成功した(熊田)。 非可換エニオンを持つ分数量子ホール状態を実現するための高品質2次元電子系の作製を目指し、MBE結晶成長を行った。現在のMBE装置に対する環境測定により、試料に不純物(酸素)が多く取り込まれていることが判明したため、システムベークなどの対策を行った。その結果、易動度505 m^2/Vs、 電子密度2.7 x 1015 m^-2の高易動度の試料作製に成功した。これは非可換エニオンの観測に向けた大きな前進である(秋保)。 遅延回路を用いたブレーディングデバイス、およびトポロジカル量子計算のアーキテクチャについて検討を行った。特に、分数量子ホール系のバルク領域におけるエニオンとエッジを伝播するエニオンの関連を理論的に調べ、エッジ状態を用いるアーキテクチャの妥当性を確認した(橋坂)。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの成果を踏まえて、令和5年度には並走する分数量子ホールエッジ状態を用いたMach-Zehnder干渉計を測定し、エニオン検出デバイスとしての可能性を評価する。整数エッジチャネルの実験結果から並走チャネル間のクーロン相互作用とトンネル効果の重要性が明らかになったことを踏まえ、これらの効果による固有エッジ励起モードの変化を調べる研究を行う。また、昨年度に引き続き干渉計の輸送特性の理論計算を進め、干渉計の周囲に存在する3本目のエッジ状態の効果について、数値計算による解析を行う。 単一エニオン源、およびそのための高速電荷パルス生成技術については、昨年度得られたデータを基にプラズモンの励起効率および減衰率を解析し、国際会議、論文等で成果を発表する。並行して、テラヘルツ電圧パルスをゲートに入射することでグラフェンFETの超高速動作実証を目指す。ゲートの超高速変調はコヒーレント時間内に多くのエニオン操作を行うために不可欠な技術である。 高品質半導体試料作製については、さらなる品質向上のために以下の施策を行う。(1)サンプルホルダーを改造し、脱ガスを抑制し不純物濃度を低減させる。(2)基板温度、AlGaAs組成の細かなパラメータを最適化する。(3)局所的にシステムベークを行いMBEチャンバーの真空度を高める。(4)層構造、特にドーピング構造(超格子ドープ、量子井戸ドープ)を試し、目的に最適な構造を確認する。以上の施策で試料を作製し、He3温度で評価することで目的達成への道筋を立てる。 遅延回路を用いたブレーディングデバイス、およびトポロジカル量子計算のアーキテクチャについて、これまでに整理した内容を論文として発表する。
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