研究課題/領域番号 |
22H00127
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山下 雅樹 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (10504574)
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研究分担者 |
小川 洋 日本大学, 理工学部, 助手 (20374910)
柿内 秀樹 公益財団法人環境科学技術研究所, 環境影響研究部, 研究員 (20715479)
風間 慎吾 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 准教授 (40736592)
小林 雅俊 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 学振特別研究員(PD) (50824059)
BUI TUANKHAI 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任研究員 (50897337)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 暗黒物質 / 極低バックグラウンド / 液体キセノン検出器 |
研究実績の概要 |
気体・液体2相型キセノンXENON検出器は、低エネルギー閾値と容易な大型化により、2007年より世界最高感度で暗黒物質直接探索を行っている。現在は8.5トンの液体キセノンを用いたXENONnT実験がイタリア・グランサッソで行われている。また、その次世代に位置するDARWIN実験はXENONnTの後継機として、暗黒物質との断面積にして一桁以上高い感度を目指している。この探索では、10keV以下のキセノン原子核反跳信号を検出することが重要だが、その際に低エネルギーの背景事象を理解し低減する必要がある。本研究を始めたきっかけはその前検出器XENON1Tにて予想しなかった超過事象が約2keVあたりをピークとして観測されたためである。この超過事象がアクシオンや未知の暗黒物質によるものなのか、それとも予期せぬバックグラウンドであるかを解明し、XENONnTや次世代の実験フィードバックを与えることが目的となる。詳細な検討な結果18keVをQ値にもつトリチウム(T)のエネルギースペクトラムを仮定するとスペクトラムの形だけではその可能性が否定できない。そこで、検出器内に存在するステンレスや部材のアウトガスに由来するという仮定のもとにトリチウム背景事象の研究を行う。本研究を通してXENON実験日本グループと環境トリチウム観測の専門家(柿内)との分野を超えた協力関係を築くことができ、宇宙物理分野の低バックグランド環境におけるトリチウム背景事象の観測という新しい共同研究が生まれた。 また、次世代検出器の大きなバックグラウンドとして光センサー(PMT)があり、キセノンを保持する容器など他の兼ね合いもあるが目標の感度に到達するためには、現在の10-30%程度に減らす必要があるため、極低バックグラウンド光センサーの開発を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1..実証実験の実施: まず動作確認も含め神岡での測定を行った。環境大気中の水や水素を収集することで大気中に含まれるHTOやHTを測定した。ここでTはトリチウムを表す。エアポンプで採取した空気を-50度ほどに冷やされたコールドトラップを通すことにより約2週間をかけて水を1リットルほど回収した。水素は100度に熱せられたプラチナ触媒を用いて水として回収する。その際にはキャリアガスとしてトリチウムフリー水を電気分解した水素を用いた。地下実験室と地上環境で装置の動作確認やデータ収集が行われた。HTOに関しては地上地下ともに数TU(TU:Tritium Unit),HTでは約10^{-5}TUと六ヶ所村のトリチウム測定と放射能は変わりなく、地域にあまり依存しないことが分かった。また、地下の環境でも外部から空気を送るベンチレーションシステムがあるため、地上と変わりないことが確認された。日本での装置の確認後、イタリア・グランサッソ研究所で大気サンプルの回収を行った。また、本研究で得られた知見からXENONnTではアウトガスの低減、水素除去装置の再生など対策を行った。その結果、バックグランドを全体で1/5ほどに落とすことに成功し、超過事象は観測されなかったがこの分野で最も低いバックグラウンドを達成した。 2. 低放射能光センサーの開発 高感度な暗黒物質探索に向け、低ダークカウントSiPMや、PMTとSiPMをハイブリッドに用いた光センサーの開発と低温での試験を進めた。浜松ホトニクスの協力のもと液体キセノンシンチレーション光に感度のあるVUVタイプSiPMとハイブリット(光電管+SiPM)の低音設備を含めた暗電流測定準備を進めた。具体的にはスターリング冷凍器を用いて真空中にて常温から-100度付近まで測定が可能でVUVに感度がないSiPMでのテスト試験を行い問題なく測定できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 環境由来のトリチウムの測定 昨年度、 柿内分担者らの開発したモルキュラーシーブス分離技術を用いて神岡坑内、イタリア・グランサッソでのサンプルを行うことができたので、今後はこの全てサンプル中のトリチウム定量評価を環境研にて行う。定量評価は採取した水を濃縮後、液体シンチレータに混ぜ、シンチレーションカウンティング法を用いて行う。 これらのすべのサンプルの評価を行い結果にまとめる。また、大気中のHT/H2,HTO/H2O比を求め,XENONnT検出器への評価を行う。 (2) 純化フィルターの水素,水除去効率 今年度は、真空系、低温系(パルス管冷凍機)のセットアップの準備を進め 、神岡施設にて低温での独自の純化フィルターの水素除去率を測定し,その情報をもとにXENONnT用純化装置に反映する。純化フィルターの条件は, (A)-100°Cの低温で水素 ,水分をXENONnT検出器の運転期間にして数ヶ月に渡り除去できること。流量は液体キセノン毎分数リットル。 (B)放射性物質の湧き出しが少ないこと。例えばラドン0.5mBq以下である。また、分担者・小川は市販のモルキュラーシーブスよりも2桁ほどラドン放出量のない低放射能化に成功している。昨年度開発された安価で応用の幅が広がる可能性のあるこのモルキュラーシーブスを同時に評価する。この研究から2つの材料を合わせた純化システムの構築が予想される。 (3) DAWINに向けた光検出器の開発 UVに感度のあるSiPMの準備が昨年度整った。常温でのテストが終了したため、液体キセノン温度(-100度)にて暗電流の測定を行う。冷却には スターリング冷凍機を断熱真空層に設置し、銅のコールドフィンガーを通して冷却する。今回低暗電流が期待されるSP版と通常のSTD版を同時に冷やすことで評価を行う。目標は0.01Hz/mm^2である。
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