研究課題/領域番号 |
22H00163
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
掛川 武 東北大学, 理学研究科, 教授 (60250669)
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研究分担者 |
古川 善博 東北大学, 理学研究科, 准教授 (00544107)
石田 章純 東北大学, 理学研究科, 助教 (10633638)
三村 耕一 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80262848)
大藤 弘明 東北大学, 理学研究科, 教授 (80403864)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リン / 初期地球 / ヌクレオチド / 衝撃実験 |
研究実績の概要 |
現在と初期地球を含めた生物が行う化学反応能力の中で最も重要なのがエネルギー蓄積・運搬能力であり、AT P(アデノシン3リン酸)が担っている。初期地球の前生物世界でATPを 生成するためには岩石圏から リンを供給し、有機物と一体化させることが必要である。しかし初期地球におけるリンの供給源や元素サイクル、化学的状態に関しては不明のままである。本研究では,このリンの問題にフォーカスし研究を展開する。その中で初期地球表層環境中でリンが「特異的」元素循環を行い、その終着駅においてATP形成したことを示す。 研究を遂行するために、以下の4つの課題を設定し鉱物学・地球化学・合成有機化学を融合した研究を展開する。第1の課題は 前生物世界での特異的リン元素サイクルの解明である。特に大陸のなかった初期地球では海底の玄武岩がリンの元素循環のスタートであったことを示す。これは主に海外から採集された岩石試料の分析を通して行う。第2の課題では初期地球リン循環に対して隕石衝突の果たした役割を明らかにする。リン酸が還元的リンに変わりうることや、衝突で特有のリン鉱物を形成しうることを示す。この課題は名古屋大学との共同研究として行う。第3の課題の中で初期地球海水中に「リン酸」だけでなく「還元的リン」が存在していたのかを検証する。 さらに前生物的世界の堆積物内部リン再循環を通して、リン酸がリボースなどと反応し、AT Pが生成された可能性を実験的に実証するのが第4の課題である。これら研究を介して生命の起源に関する新しいシナリオを構築する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第1の課題のリンの供給源を特定するために、特にオーストラリアピルバラ地域に産する34億年前のApex玄武岩とカナダアビティビ緑色岩帯の枕状溶岩に関する鉱物学的、地球化学的研究を行った。Apex玄武岩の研究では34億年前の海底熱水活動によって玄武岩からリンが溶脱されうることを示した。27億年前の枕状溶岩の研究でも同様の結果が得られて、特にリンの溶脱とTiの挙動がリンクしているという新事実の発見に至った。これらは前生物世界のアナログと考えられ、海底溶岩からのリンの溶脱が初期地球では普遍的に起こっていた可能性を示す結果となった。初期地球リン循環に対して隕石衝突の果たした役割(第2の課題)を明らかにするために名古屋大学においてリン鉱物(アパタイト とシュライバーサイト)を用いた予備実験を展開し実験に必要な圧力条件(衝突スピード)の制約を行った。さらに衝突時における有機分子リン酸化実験にも成功した。第三の課題は第一の課題と同時並行で行われ、鉱物学的熱力学的研究によって局所的な海底熱水環境のみで還元的リンが存在しうることを示した。さらに前生物的世界の堆積物内部リン再循環系を実験室で作り出し擬似ATP(ヌクレオチド)が生成されうることを実験的に実証 (第4の課題)し論文として出版した。 特に本研究によってリン酸と同様にホウ酸も重要な成分であることが明らかになった。これらのことは初期地球において地球表層の還元的かつ蒸発的な環境がATP制せに適切な場所であったことを示す結果であった。様々生成物の分析を円滑に行うために新たにガスクロマトグラフを新たに購入し、年度内に分析可能となった。さらに研究補助員を1名雇用し研究の効率化を測った。
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今後の研究の推進方策 |
第一の課題では今までの分析を継続する一方で成果を論文化する。さらに38億年前の海底の原文ガンも分析対象にする。同一試料で第3んの課題も実施する。この時に硫黄の存在が局所的に還元的なリンをアパラチと結晶中に保持しうることを示す。第二の課題では多くの実験を行い、リンの化学種変化を追跡する。第4の課題では反応系を複雑化してより初期地球の環境に近い状態で実験を行う予定である。
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