研究課題/領域番号 |
22H00174
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日高 洋 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (10208770)
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研究分担者 |
米田 成一 独立行政法人国立科学博物館, 理工学研究部, 部長 (60210788)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 原始太陽 / 宇宙線照射 / 中性子捕獲 / オルダマイト / サマリウム / エルビウム / イッテルビウム |
研究実績の概要 |
本研究では、太陽系初期凝縮物として知られるオルダマイトを包有物として含む6種類のエンスタタイトエコンドライト(オーブライト)を実験試料として用い、各試料中のオルダマイトとそれ以外の成分を区別する方法として、酸による段階的溶出を行った。その結果、第一段階における溶出過程にてオルダマイトが選択的に溶出され、その他の成分と化学的に分離できることが明らかとなった。 次いで、各試料の4つの溶出フラクションからSm, Gd, Er, Ybを化学分離した後、まず、Sm同位体測定を行った。Smからは、宇宙空間における宇宙線照射による核破砕反応の生成物として生じる中性子との相互作用による149Smの中性子捕獲反応の影響を反映した同位体変動が期待できる。その結果、(1)同一試料中でも溶出フラクションによってSm同位体変動の度合いが異なること、(2)オルダマイトが選択的に溶出されたフラクションの変動幅が一番大きいこと、がわかった。本結果は、太陽系内で最初期に凝縮したと考えられるオルダマイトが当時の太陽からの激しい照射を受けた後、そのほかの成分が徐々に形成され、隕石母天体に含有された、と考えられ、オルダマイト以外の成分が形成されるまでには有意な時間差があったためオルダマイトほどの照射を受けていなかったためと考えられる。 オルダマイトが受けた宇宙線照射環境をより詳細に考察するにあたり、宇宙線照射に伴って発生する中性子のエネルギー分布をとらえることを考え、Smとは異なるエネルギー領域の中性子と敏感に相互作用を起こす核種を同位体として含むGd, ErおよびYbの同位体変動を同時に検出することを計画している。特にYbについては同位体存在度の低い168Ybおよび170Ybを高精度に検出する必要があるため、質量分析のファラデーカップ検出器のイオン電流増幅回路の高度化を図っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
高精度同位体測定法の確立のための実験の過程で、検出系と既存の装置のオペレーションソフトウェアの間に不具合が生じ、装置の連続運転ができなくなる事象が偶発することが判明した。このため、Gd,Ybなど同位体存在度の低い同位体を含む元素の高精度同位体測定法の確立などが当初の計画より遅れた。一方、Sm, Erの同位体測定については滞りなく実施することができた。なお、装置の連続運転ができなくなる事象については根本的な原因の解消には至っていないが、これを回避して測定することは可能であるため、本研究計画を今後継続していくうえで大きな支障とはならないと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画よりやや遅れていたYbおよびGdの高精度同位体測定を実施し、同位体存在度の低い168Yb, 170Yb, 152Gd, 154Gdの存在度を従来に比べて5~10倍の高精度で測定可能とする手法を確立する。その後、実試料についてYb, Gdのデータを取得し、すでに取得ずみであるSm, Erデータと比較することで、これらの同位体変動の度合いを総合的にとらえることを目指す。この同位体変動度の総合的解釈により、太陽系初期の太陽系宇宙線照射によって生じた中性子エネルギーの分布を定量的に見積もることが可能となる。 次いで、本手法を別試料について適用していくことを計画している。太陽系初期凝縮物として炭素質コンドライトに包有物として含まれるCAI、コンドライトに含まれるコンドリュール等に適用する。
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