研究課題
本研究では、蛇紋岩熱水系における非生物的炭化水素合成反応の物理化学条件依存性(温度・圧力・初期流体組成・触媒組成)とそれを駆動する触媒生成メカニズムを明らかにし、実験的に検証された「蛇紋岩熱水系深部-無水マントル境界における炭化水素合成モデル」を構築することを目的としている。令和4年度は、蛇紋岩熱水系深部-無水マントル境界を模した高温高圧水-岩石反応実験を行った。渋谷(代表)は、Fe-Ni合金によって駆動される非生物的炭化水素合成反応の温度依存性を検証するために、300℃と425℃(いずれも500気圧)で実験を開始した。また、天然の岩石を用いたFe-Ni合金合成実験は反応時間が長いため(1年以上)、300℃、500気圧の実験を開始した。須田(分担)は、産業技術総合研究所の同位体ラベル試料専用のラボにて、水-岩石反応実験で得られる溶液試料の溶存有機酸分析システムの整備を行った。眞壁(分担)は、水-岩石反応実験で得られる溶液試料の溶存ガス及び揮発性有機物分析の分析システムの整備を行い、開発した分析法を実験試料に適用した。Fe-Ni合金を用いた実験では、先行研究に比べてFe-Ni合金の導入量を多くした結果、先行研究以上に反応時間が長くなったため令和5年4月現在も実験を継続中である。このことは、先行研究ではFe-Ni触媒の酸化などによる触媒機能の喪失が起きていた可能性があることを示している。また、得られている分析結果は300℃の実験の方がメタンと蟻酸の生成がやや早いことを示しており、Fe-Ni合金が存在する熱水系においては炭化水素合成反応が早く進みやすい領域があることを示唆している。かんらん石を用いた実験では、初期物質として導入した二酸化炭素がギ酸に還元される反応が進行中であるのが確認されている。このことは、蛇紋岩熱水系での二酸化炭素の還元プロセスにおいてギ酸までは比較的早く進むことを示している。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度は、実験中のトラブルも少なく、Fe-Ni合金を用いた実験とかんらん石を用いた実験を当初の計画通り進めることができた。300℃と425℃の温度で開始したFe-Ni合金を用いた実験では、現在もリーク等、失敗を示すデータは得られておらず炭化水素合成反応が進んでいることを確認できている。また、かんらん石を用いた実験も予定通りデータが得られており、Fe-Ni合金を用いた実験とは違う反応プロセスを示していることを確認できている。このようなことから、全体の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
これまでの研究が順調に進んでいることから、当初の計画通りに研究を進めていく。Fe-Ni合金によって駆動される非生物的炭化水素合成反応実験については、今後はさらに低温の実験を行う。これにより非生物的炭化水素合成反応の温度依存性を明らかにする。また、実験によって得られたデータと熱力学計算結果を比較し、Fe-Ni合金触媒を介した炭化水素合成反応の反応速度論に基づく解釈を行う。令和4年度から継続中のかんらん石を用いた実験についても定期的にデータを取得する。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 3件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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