研究課題
本研究では、蛇紋岩熱水系における非生物的炭化水素合成反応の物理化学条件依存性(温度・圧力・初期流体組成・触媒組成)とそれを駆動する触媒生成メカニズムを明らかにし、実験的に検証された「蛇紋岩熱水系深部-無水マントル境界における炭化水素合成モデル」を構築することを目的としている。令和5年度は、蛇紋岩熱水系深部-無水マントル境界を模した高温高圧水-岩石反応実験を継続して行った。渋谷(代表)は、Fe-Ni合金によって駆動される非生物的炭化水素合成反応の温度依存性を検証するために行っている300℃と425℃(いずれも500気圧)の実験を継続し、随時溶液のサンプリングおよび化学分析を行った。また、天然のかんらん石を用いた実験についても同様に継続した。須田(分担)は、産業技術総合研究所の同位体ラベル試料専用のラボにて、水-岩石反応実験で得られた溶液試料の溶存有機酸分析を行い実験で発生した有機酸の炭素同位体ラベル率を決定した。眞壁(分担)は、水-岩石反応実験で得られる溶液試料の溶存ガス及び揮発性有機物分析を行い、実験で発生したメタン等揮発性有機物の炭素同位体ラベル率を決定した。以上の結果、天然のかんらん石を用いた実験では、実験開始後8ヶ月で同位体比分析が可能な量のメタンや有機酸の発生が確認された。この現象について、メタン等の発生のタイミングや発生速度、炭素同位体ラベル率など、詳細な分析と解析を行った結果、メタン等の発生はコンタミネーションの影響ではなく非生物的二酸化炭素還元炭化水素合成反応によるものであることがわかった。このことは天然の蛇紋岩熱水系において、非生物的二酸化炭素還元炭化水素合成が起きうることを強く示唆している。
2: おおむね順調に進展している
令和5年度は、当初の想定を超えて、かんらん石を用いた実験においてメタンや有機酸などが発生した。メタン等の発生するタイミングや速度がコンタミネーションであるとは考えにくかったため、詳細な分析を行う必要が生じた。このため、当初予定していた、炭化水素合成反応の圧力依存性、触媒組成依存性を明らかにする実験を先送りし、かんらん石を用いた実験で発生したメタンや有機酸の同位体比分析、熱力学的解析等を主に進めた。その結果、発生したメタンはコンタミネーションではなく、二酸化炭素還元炭化水素合成反応によるものであることが判明した。先送りした実験があるものの、本研究課題において大幅な進捗があったことから、全体の進捗状況を「おおむね順調に進展している」と判断した。
先送りした非生物的炭化水素合成反応の圧力依存性、触媒組成依存性を明らかにする実験を開始する。一方、初期物質にFe-Ni触媒を含んでいないにもかかわらず天然のかんらん石を用いた実験では非生物的二酸化炭素還元炭化水素合成反応が進み始めた。したがって、次年度以降はこの実験を継続して行うとともに、初期条件をわずかに変えた実験を行う。これにより、本研究で得られた非生物的二酸化炭素還元炭化水素合成反応のデータの再現性を確認するとともに、反応のメカニズムに制約を与える。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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