研究課題/領域番号 |
22H00186
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小橋 真 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (90225483)
|
研究分担者 |
寺坂 宗太 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 研究員 (50850343)
鈴木 飛鳥 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (90802603)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | BJT方式積層造形 / アルミニウム / 液相焼結 / 焼結助剤 / Al-Cu-Mg合金 / モンテカルロシミュレーション |
研究実績の概要 |
金属積層造形手法としてバインダジェッティング(BJT)方式が注目されている。本研究では、BJT方式積層造形に適用可能なアルミニウム焼結技術の体系化に取り組んでいる。具体的には、液相焼結に取り組み、(i)CALPHAD法による計算状態図に基づく焼結助剤合金設計、(ii)液相焼結助剤の固相粉末とのナノ・ミクロ・マクロの濡れ現象のその場観察、(iii) モンテカルロ法によるシミュレーションを援用した液相焼結時の緻密化支配因子の推定を実施している。2022年度の成果を以下に示す。 1.焼結助剤合金設計:Al-Cu(低融点化元素)-Mg(酸化物分解元素)の三元系焼結助剤を計算状態図により組成を決定した。CALPHAD計算状態図により、550℃以下で共晶液相が出現する組成範囲をスクリーニングした。 2.Al2O3被膜の化学的分解挙動の観察:表面酸化物層の厚みが異なる純アルミニウム粉末(酸化物層厚さ:2 nm, 4 nm)と酸化物分解元素(Mg)を含むAl-Mg合金粉末を混合して加熱し、純アルミニウム粉末の粒成長過程を観察した。粒成長の程度からマグネシウムによるアルミニウム表面酸化物層分解能を評価した。観察の結果、マグネシウムにはアルミニウム粉末表面酸化物層を化学的に分解する能力があることを確認できた。今後は、表面状態の変化にも注目し、どのような化合物が形成されているのかを調査する。 3.モンテカルロ法による焼結シミュレーションを援用した収縮挙動支配因子の推定:モンテカルロ法を用いた焼結シミュレーションにより、各種パラメータがグリーン体の収縮挙動に及ぼす影響を体系的に整理し、実際の焼結挙動と比較した。2022年度は液相焼結過程を再現することに取り組んだ。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、おおむね計画書に記載した内容で研究を進めている。 焼結助剤合金設計は、アルミニウムにマグネシウム、カルシウム、銅を添加した二元系、三元系のCalphad状態図を作成した。作成した計算状態図から液相焼結助剤として適用可能な組成範囲を明確にすることができた。また、各温度における平衡液相量を計算することもでき、焼結助剤として適切な組成を検討することができた。 アルミニウム粉末表面の酸化膜分解挙動を放射光施設で観察したところ、Al2O3やMgAl2O4のピーク強度が弱く、うまく検出ができなかった。そこで、アルミニウム粉末とAl-Mg合金粉末の焼結体について、断面観察からアルミニウム粒子の焼結に伴う粒成長の様子を観察した。酸化膜を分解することにより、粒成長が生じるので、アルミニウム粒径を計測すると酸化物層が分解されたということを評価した。これにより、酸化物層の分解に及ぼすマグネシウムの影響を定量的に評価することができた。 モンテカルロ法による液相焼結シミュレーションついては、パラメータフィッテイングに必要な、実際の焼結挙動の時間変化を系統的に調査した。これを参照して、アルミニウム液相焼結挙動の解析に取り組み、順調に実施している。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、基本的な焼結挙動を理解するために、Al-Cu-Mg合金を用いた液相焼結における、焼結時間ごとの断面組織を観察する。また、放射光施設(Spring-8)を利用した放射光CTにより焼結過程のその場観察を実施する。2023年度に入り、すでに実施をしたが、現時点では加熱炉のセッティング、正確な試料温度の計測手法の検討などに取り組んでいる。 液相助剤粉末が融解し、アルミニウム粉末表面を濡れ広がる過程のその場観察も実施する。顕微鏡観察炉を用いてデジタルマイクロスコープまたはレーザ顕微鏡により観察する。それにより、液相焼結助剤の組成とアルミニウム粉末表面の拡張濡れ挙動の関係を明らかにする。 モンテカルロ法により液相焼結シミュレーションは、初めに相互不溶解の固液系をモデルとして実施する。シミュレーションに改良を加えて、固相成分が液相に溶解する場合、液相成分が固相粒子に拡散する場合を想定したシミュレーションについても検討を行う。シミュレーション技術を確立した後に、助剤量、助剤の分布、アルミニウム粉末の初期配置などの諸条件と焼結後の残留気孔の状態との相関関係の有無についても検討する。粉末の初期配置については、パーシステントホモロジーにより定量的に評価することを検討している。 最後に、焼結体の形状安定性を評価するために焼結前後の寸法変化を計測する。円柱状試料の直径変化を計測することから始め、より複雑な形状の寸法変化の計測を検討する。また、焼結体の強度および強度と微視組織の関係についても評価する。
|