研究課題/領域番号 |
22H00187
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有馬 健太 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (10324807)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 半導体表面 / シリコン / ナノ材料 / エッチング / 固液界面 |
研究実績の概要 |
シリコン(Si)結晶で原子レベルの厚さをもつ原子層は、多様な電子・光学デバイスへの適用が期待される新材料である。しかし、魅力的な電子物性を予測する理論研究が先行する一方で、この原子層材料は、実験的に得ることが難しいという欠点がある。 本研究では、私の研究グループが培ってきた、四種類のウェットプロセスから成る独自のシーケンス(以降、自律型ウェットナノ加工)をさらに高度化し、微傾斜Si(111)表面を持つSOI(Silicon on Insulator)層に適用する。これにより、厚さが一層、二層、三層・・と調整できると共に、横幅が制御され、かつSi表面のダングリングボンドが水素(H)原子で終端化された、Si原子層リボンを自己組織的に成型することを目指している。このリボンは、大気中でも比較的酸化しにくく、安定に維持できるという特徴を持つと予想される。最終的には、このリボンをSOI層から液相プロセスにより剥離し、構造や電子物性に関する特性を評価することを目標とする。 上記の背景や研究目的に基づいて、今年度は、①原子平坦面から成るテラス/ステップ構造の形成とSOI層の薄層化、②上記ステップ端のみへの選択的な金属原子の吸着、③Si原子層の構造と電子状態を計測・評価するシステムの構築 を計画し、研究を遂行した。①及び②を遂行する過程で、ウェットプロセス中に直径10nmスケールの微粒子汚染が多く発生するなど、当初予想し得なかった課題に直面したが、ウェットプロセス条件を最適化することで改善の目途を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[1] 原子平坦面から成るテラス/ステップ構造を持つSOI層表面の形成 本研究では、Si結晶層(SOI層)/埋め込みシリコン酸化膜(SiO2膜)/Si支持基板の構造を持つ、SOI(Silicon on Insulator)ウエハを初期基板とする。面方位(111)の表面を持つSOI層を選び、複数の酸溶液を混合したエッチング液により、あらかじめSOI層表面に微傾斜角を形成する。次に、水中に溶存する酸素(O2)ガスの濃度を数ppbまで低減した低溶存酸素水に浸漬することにより、SOI層表面を異方的にエッチングすれば、原子ステップ/テラス構造が自己組織的に形成できると予想した。実際に左記を試行し、走査型プローブ顕微鏡により数μm四方領域の観察像を取得したところ、埋め込みSiO2膜とSOI層の境界で、原子ステップを持つ階段構造が形成されることを確認した。その過程で、SOI表面上に数十nmの微粒子汚染が見られるという、当初想定していなかった現象に遭遇したが、エッチング条件の最適化により回避できる見通しを得た。一方で、先述のような階段構造が見られるのは全体から見ると局所領域に限定されていることが分かった。即ち、SOI層表面の階段構造の制御性が十分でなく、微傾斜角を形成するプロセスに改良が必要であるという新たな課題を見出した。 [2] 上記ステップ端のみへの選択的な金属原子の吸着 Si(111)バルク基板を用いることで、表面の原子ステップ端に沿って、選択的に金属原子を吸着・配列できることは既に他者報告から分かっている。我々もこの原子レベルの“めっき”技術を保有しているが、金属ワイヤの連続性について再現性を高めるため、プロセスの最適化に取り組んだ。 [3] Si原子層の構造と電子状態を計測・評価するシステムの構築 非接触原子間力顕微鏡と走査型トンネル顕微鏡の複合装置(特型)の開発を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
上述した進捗を踏まえて、今後はさらに、SOIウエハ上のSOI層をウェット加工するためのプロセス条件の最適化を図る。特に、階段構造を形成する前のSOI層について、表面粗さを増やすこと無く均一に薄層化する技術は、本課題を遂行する上で鍵となるため、これに注力したい。 また、Si階段構造のステップ端のみへの選択的な金属ナノワイヤ形成についても、ステップ端の吸着化学種を制御するという観点で、さらに高度化する。また、現在開発を進めるプローブ顕微鏡システムについても、試料表面の極低温化を取り入れるなどにより、得られたシリコン表面構造の高分解能観察に取り組む。 加えて次年度は、国際会議発表やウェブサイトを通して、本研究の成果を広く公開したいと考えている。
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