研究課題/領域番号 |
22H00200
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
平田 拓 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60250958)
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研究分担者 |
安井 博宣 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (10570228)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 電子スピン共鳴 / 腫瘍 / 酸素分圧 / 細胞外pH / スペクトル / 可視化 |
研究実績の概要 |
腫瘍モデルマウスの酸素分圧およびpHイメージングを実施するための要素技術として、スペクトル空間イメージング法がある。このイメージング法は、各位置(三次元画像では各ボクセル)における電子スピン共鳴の一次微分吸収スペクトルを再構成する計測法である。電子スピンのスペクトル情報から酸素分圧やpHの値を推定し、それらの情報を三次元データとして可視化する。 本研究課題では、腫瘍モデルマウスの酸素分圧と細胞外pHの複合イメージングを実現するために、(i)計測感度の向上、(ii) 4次元データの代数的逐次近似再構成(ART)法の高速アルゴリズムの検討と実装、(iii) 磁気共鳴イメージング(MRI)による形態画像との酸素分圧およびpH画像の重ね合わせ、を目標とした。 (i) 計測感度向上(信号対雑音比SNR)については、受信システムの雑音特性を明らかにするためにノイズの電力密度特性を取得した。また、フーリエ領域において雑音が電子スピン共鳴のスペクトル情報(高調波)をマスキングする次数を明らかにした。 (ii) 3次元および4次元のスペクトル空間イメージングを行うために、ART法による画像再構成アルゴリズムのFortran 95による実装とOpenMPによる並列化を行った。その結果、64x64x64の3次元空間と768点のスペクトル情報で構成される4次元スペクトル空間データの再構成計算をできるようにした。 (iii) 研究代表者の研究室に 1テスラ・マウス用MRI(Aspect Imaging、M3)を導入(リース)し、腫瘍モデルマウスの形態画像を取得できるようにした。酸素分圧およびpH画像との重ね合わせはまだ未実施であるが、導入したMRIにおいて腫瘍モデルマウスのルーチン計測を行う手技を獲得した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、主に三つの課題に取り組んだ。上記の研究実績でも述べたが、(i)計測感度の向上、(ii) 4次元データの代数的逐次近似再構成(ART)法の高速アルゴリズムの検討と実装、(iii) 磁気共鳴イメージング(MRI)による形態画像との酸素分圧およびpH画像の重ね合わせ、を目標とした。(i)計測感度の向上については、雑音特性の解明について進展したが、マルチハーモニック検波法による高感度化が当初予定ほど進展しなかった。(ii) 4次元データのART法の高速アルゴリズムの検討と実装については、予定以上に進展した。具体的には、3次元の画像データの再構成では、スペクトルの投影データを求める際のシステム行列の記述を変更し、計算を高速化することに成功した。当初の1%の計算時間で3次元空間イメージングの再構成を行えるようにした。4次元のデータのついては計算量が多いことから、引き続き数時間の計算時間が必要である。(iii) 磁気共鳴イメージング(MRI)による形態画像との酸素分圧およびpH画像の重ね合わせについては、1テスラMRIの導入が完了し、腫瘍モデルマウスの撮像がルーチンでできるようになった。画像の重ね合わせには検討すべき事項があるものの、MRIで適切にマウスの形態画像を取得するという第一段階の目標はクリアできた。以上の結果から、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度に実施した項目を引き続き2023年度も推進する。当初予定していたマルチハーモニック検波法による受信システムの高感度化は引き続き検討する。特に電子スピン共鳴のスペクトルを取得する際の変調の大きさを増大させることにより、これまでに達成された信号検出感度が改善するか検討する。また、データ容量と計算量の多い4次元スペクトル空間イメージングの再構成計算について、引き続き、高速化の余地がないか検討する。さらに、MRIによる形態画像と酸素およびpHの画像を重ね合わせるために、マウスや腫瘍部の位置を保持するサンプルベットを工夫する。今後、電子スピン共鳴計測とMRIに共通のマウスベットを製作し、異なる装置の間を腫瘍モデルマウスが移動しても、同じ形状で撮像できるように実験上の工夫を行う。 上記に加え、空間分解能を改善する研究項目に取り組む。マウスを用いた実験においてスペクトルデータを多く取得できるように、分子プローブを継続的にマウスに投与する方法をテストする。また、酸素およびpHを求める最適化問題を定式化し、少ない(スパースな)データから情報を抽出できないか検討する。
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