研究課題/領域番号 |
22H00209
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
セット ジ・イヨン 東京大学, 先端科学技術研究センター, 准教授 (20530827)
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研究分担者 |
金 磊 東京大学, 先端科学技術研究センター, 助教 (10825748)
山下 真司 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40239968)
張 超 島根大学, 学術研究院理工学系, 助教 (20881668)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 三次元計測 / レーザ形状計測 / ビームスキャナ / LIDAR / 3Dイメージング / 光計測 / 距離計 / 非機械式 |
研究実績の概要 |
まず、チャープ型強度変調位相シフト法について、実際の形状測定に応用するために波長分散による1次元の非機械式スキャニングに加えて自動の機械式スキャニングシステムを追加することで全自動の2次元スキャニングシステムを実装した。これにより物体の表面形状データを高速にスキャンすることが可能となった。そして、測定した様々な物体形状に対して解析を行い、3次元データのノイズを低減するためのディジタル信号処理アルゴリズムの検討と原理検証を行った。本アルゴリズムは一般的な画像処理におけるノイズ低減アルゴリズムとは異なり、本手法の測定原理と光学測定の知見に基づいた新奇なアイデアを応用したものであり、一般的な手法よりも確度の高い3次元表面形状計測が期待できる。この原理検証においては機械部品や鍵など数種類のサンプル物体の表面形状を測定し、本アルゴリズムの適用によって既存の信号処理技術と比較して正確に形状を再現できることが確認された。 次に、ピコ秒光サンプリング飛行時間法について、基盤技術である短パルスレーザの研究開発を行った。3次元形状計測の実応用化に向けては高性能で環境安定性の高い短パルスレーザが必須であり、これに資するファイバレーザ技術として光ファイバ中における非線形偏波回転や光ファイバに対する応力付与による可変フィルタリング効果、2波長発振などによる新規発振原理に基づく技術を複数開発し、発表を行った。 上記成果に加えて、FMCW方式とToF方式のLiDARの開発にも取り組んだ。FMCW方式に関しては、光周波数コムを導入して、LiDAR受光器帯域による測定距離の制限を克服し、長距離LiDARを実現した。ToF方式に関しては、2コム干渉法を導入して、150μmの奥行空間分解能を有するLiDARを構築した。ここでは一対のCWを参照光として用いることで、2台の自走パルス光源で2コム干渉の安定化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度の主な取り組みとしてはチャープ型強度変調位相シフト法については取得した3次元計測に関するノイズ低減などソフトウェアによる信号処理に関するテーマであり、ピコ秒光サンプリング飛行時間法については基礎技術である光ファイバレーザの開発等ハードウェアに関するテーマにおいて進捗があった。 チャープ型強度変調位相シフト法では未だ完全な非機械式ではないものの、全自動2次元光スキャニングシステムを構築したことにより想定よりも多くの3次元形状計測データを取得することができ、国内学会発表への1件の採択に加えてさらなる新奇なアイデアや信号処理に関する改善案が生まれる等の進展があった。 また、光サンプリング飛行時間法ではサンプリングアルゴリズムに関する学術発表は実現できなかったものの上述の通り光ファイバレーザ技術において複数の新規技術が生まれ、7本の国際査読付き学術論文誌への掲載に加えて国内外の学術会議において27件(うち国際会議17件、招待講演2件)の発表が行われ、特許2件を出願済み、1件を出願中である。 本研究課題では光ファイバレーザや光スキャニング技術等のハードウェア的な要素とサンプリングアルゴリズムやディジタル信号処理技術などのソフトウェア的な要素を高度に掛け合わせることが求められる。その点において昨年度の両技術における進捗はハードウェア、ソフトウェアの両側面について今年度以降の発展に大きく貢献する想定以上の進捗であったと考える。 また派生研究として、光周波数コムを利用した長距離FMCW LiDAR、CW参照光を用いた2コム干渉によるToF LiDARの原理確認実験に成功した。これらの成果は、国際査読付き学術論文誌への掲載が1件、国内外の学術会議において10件の発表が行われた(うち国際会議2件、国内会議7件、招待講演1件)。このうち学生論文賞5件を勝ち取った。また、特許1件を出願済である。
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今後の研究の推進方策 |
前述の通りチャープ型強度変調位相シフト法とピコ秒光サンプリング飛行時間法においてハードウェアとソフトウェアの各側面から進捗があった本研究であったが、それに応じて両手法で今後注力すべき課題も明らかになった。 まずチャープ型強度変調位相シフト法については3次元表面形状のノイズ低減アルゴリズムで一定の成果を挙げた。これに続いて今後はより多様な形状において考案したアルゴリズムの適応可能性を模索する必要がある。さらに実応用化に際しての十分な計算速度や精度について調査を進める。またハードウェアについてであるが、本技術の重要な要素である非機械式光スキャニングについて2次元の光スキャニングを完全に非機械式で実現することが今後の研究における重要な指標となる。これについてはすでに先行研究をもとにした実現計画がありこれらを本研究に応用することにより完全に非機械式で高速な2次元光スキャニングシステムの実現を目指す。 次にピコ秒光サンプリング飛行時間法についてはこれまでに集積してきた光ファイバレーザ技術における知見を活用することにより成果を挙げた。今後はこれらの技術を実際の測距及び形状計測に組み込んでいく方法について具体的に考える必要がある。さらに、より長距離での測距動作実現に際してディジタルコヒーレント検波技術等を応用したリニア光サンプリング技術を可能にするディジタル信号処理ソフトウェア技術の実装を行う。 上記を踏まえた研究開発体制を迅速に整備し、チーム内での活発な議論や知見の共有を通じて次年度以降も積極的に学術論文誌への投稿や学術会議における研究発表を行っていく予定である。
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