研究課題
本研究では、PCR法にて高感度で定量可能な「外来DNAを封入したノロウイルスの外套タンパク粒子(VLPs)」を、あらかじめ作製したVLPsを還元剤の添加によりいったん崩壊させた後、外来DNA共存下での塩化カルシウムの添加によりVLPsを再合成させることにより外来DNAをVLPsに封入し、作製しようと試みてきた。これまでの検討で、外来DNAのVLPsへの封入には成功したものの、その封入率が著しく低く、このようなDNA封入VLPsを用いても、計画当初の目標であった「低濃度ノロウイルスの浄水処理性の評価」が困難であると判断された。そこで昨年度は、カルボキシ-EG6-ウンデカンチオールによるコーティング処理を施した金ナノ粒子を用意し、そこに外来DNAを修飾することにより作成したDNA修飾金ナノ粒子を用いることにより、外来DNAのVLPsへの封入率を高めようとした。その結果、コーティングなしのDNA修飾金ナノ粒子では、金ナノ粒子が封入されたVLPsが電子顕微鏡でほとんど観察されなかったのに対し、コーティングしたDNA修飾金ナノ粒子を用いると、3%程度のVLPsに金ナノ粒子が封入可能であることが分かった。しかしながら、PCRによる封入したDNAの定量感度が極めて低いため(定量下限 10^7 copies/mL)、処理後のVLPs濃度が定量可能な範囲で浄水処理実験を行おうとすると、初期濃度を「実浄水場の原水中にて検出されるウイルス濃度」に比べて、極めて高濃度で添加する必要がある(よって、本研究の目的である「実浄水場の原水中と同程度の濃度におけるウイルスの除去性評価」が行えない)。今後、定量下限の低いDNAとプライマーセットを構築し、そのDNAをVLPsへと封入することにより、極めて高感度に検出可能なVLPsの実験系を組む予定である。
2: おおむね順調に進展している
本年度の検討にて、予めカルボキシ-EG6-ウンデカンチオールによるコーティング処理を施した金ナノ粒子にDNAを修飾することにより作製したDNA修飾金ナノ粒子を用いることにより、VLPsへの外来DNAの封入率を大幅に向上させることに成功し、外来DNAの効率的なVLPsへの封入手法を構築することができた。今後、定量下限の低いDNAとプライマーセットを構築し、そのDNAをVLPsへと封入することにより、極めて高感度に検出可能なVLPsの実験系を組むことが可能となり、次年度へ繋がる成果を出すことができた。また、「浄水場でのPMMoV調査」は、2年間に渡る長期調査を行うとともに、処理方法を「凝集-沈澱-砂ろ過処理」から「凝集-MF膜処理」へと更新した2つの浄水場でのデータを取ることができた。これにより、同一の水系にて処理法の違いがウイルス除去率に与える影響を議論することができる。以上より、「おおむね順調に進展している」と判断した。
定量下限が10^2~10^3 copies/mLとなるようなDNAとプライマーの組み合せを構築し、そのDNAを上記の手法にてVLPsに封入してDNA封入VLPsを作製することを試みる予定である。その後、作製したDNA封入VLPsを用い、「実浄水場の原水中にて検出されるウイルス濃度」と同程度の濃度を初期VLPs濃度とした浄水処理実験を行い、実浄水場の状況に即した除去性の評価を行うことを目指す。
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Water Research
巻: 236 ページ: 119951
10.1016/j.watres.2023.119951