研究課題/領域番号 |
22H00259
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
鎌土 重晴 長岡技術科学大学, 工学研究科, 学長 (30152846)
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研究分担者 |
宮下 幸雄 長岡技術科学大学, 工学研究科, 教授 (00303181)
中田 大貴 長岡技術科学大学, 産学融合トップランナー養成センター, 特任講師 (80800573)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / 圧延加工 / 不均一組織 / 集合組織 / 結晶粒径 / 引張特性 / 室温成形性 / 結晶塑性解析 |
研究実績の概要 |
Mg-Al-Mn合金およびMg-Zn-Ca合金を用いて圧延加工を行い、種々の温度条件による焼なまし後、引張特性や室温プレス成形性、微細組織の評価を行い、優れた強度-成形性バランスを有する合金組成とその組織因子を明らかにした。 Mg-Al-Mn合金では、アルミニウム添加量によって、焼なまし後の組織因子が大きく異なることを確認し、アルミニウム添加量が2~4%の場合に、圧延集合組織成分(マグネシウム底面が圧延面に平行に配向した成分)を低減でき、微細な再結晶組織も形成するため、優れた引張特性と室温張出し成形性を示すことがわかった。5%以上のアルミニウムを添加した後、比較的低温にて焼なましを行うと、加工粒が残留したミクロヘテロ構造を形成し、強度特性は大きく改善し、良好な破断伸びを付与できることがわかった。ミクロヘテロ構造を有する材料でも、良好な張出し成形性は示すものの、高成形アルミニウム合金相当の成形性は付与できなかった。結晶塑性シミュレーションを援用して、検討合金圧延材の臨界分解せん断応力や塑性変形時の活動転位および双晶の割合を定量的に評価したところ、アルミニウム添加量が増えるにつれて、非底面すべり(柱面すべり)が活動しやすくなることを明らかにした。さらに、ミクロヘテロ構造の導入でも、柱面すべりが活発化することを見出した。 Mg-Zn-Ca合金では、高成形アルミニウム合金に匹敵する室温張出し成形性の発現に成功した。また、圧延加工後の熱処理条件を変え、検討合金圧延材の引張特性および室温張出し成形性に及ぼす結晶組織の影響を調べたところ、検討合金圧延材では、引張降伏応力に及ぼす結晶粒径の依存性が強く、また、結晶粒が微細化しても優れた室温張出し成形性を示すことがわかり、Mg-Al-Mn合金を上回る強度-成形性バランスを実現可能なプロセスを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マグネシウム合金圧延材の引張特性や室温張出し成形性に及ぼすミクロヘテロ組織の影響を調べた。ミクロヘテロ構造の導入により、柱面すべりが活発化し、強度-延性バランスを大きく改善できることを見出した。一方で、柱面すべりが活発化しても、室温張出し成形性の改善は認められなかった。最近の研究開発では、マグネシウム合金圧延材の成形性改善手法として、柱面すべりの活発化が提案されているものの、本研究では、これとは異なる結果が得られた。高成形性アルミニウム合金に匹敵する室温張出し成形性を示したMg-Zn-Caを用いて、引張試験中および成形試験中の変形挙動を調べたところ、成形試験時には、柱面すべりの活動が低減することがわかり、底面すべりの活動がより重要となる可能性を示した。Mg-Al-Mn合金圧延材の変形挙動に及ぼすアルミニウム添加量の影響を調べた結果からも、最近の国内外の研究トレンドとは異なり、マグネシウム合金圧延材の室温プレス成形試験中には柱面すべりは活動し難く、底面すべりの活発化が張出し成形性改善に極めて重要となることを確認した。 また、一般的に、析出物が存在すると、変形能は低下する。事実、7%のアルミニウムを添加したMg-Al-Mn合金圧延材では、焼なまし温度が低い場合、析出物が微細かつ高密度に分散し、強度特性は向上するものの、張出し成形性は大きく低下する。一方で、Mg-Al-Mn合金にスズを添加し、分散する析出物の種類を変化させたところ、張出し成形性の劣化なく、強度アップできることがわかった。この結果は、マグネシウム合金圧延材の強度と成形性の同時改善手法として、析出物が有効であることを示唆しており、高強度・高成形性マグネシウム合金開発の新しい組織設計指針提案につながると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
マグネシウム合金圧延材で形成するミクロヘテロ構造の加工粒は、底面が圧延面に平行に配向した”底面集合組織”を有することが一般的であり、この配向を制御することで、強度・延性と同時に、プレス成形性も改善できると考えられる。このため、Mg-Al-Mn合金では、圧延プロセス中の組織形成に及ぼすアルミニウム添加量や、圧延加工時の温度・圧下率、圧延パス毎の再加熱の有無・温度などの影響を調べ、加工粒の底面配向制御を試みる。また、Mg-Al-Mn合金へのカルシウムや亜鉛添加によって、非底面すべりの活性化による底面集合組織の形成抑制や、第二相の形成による高強度化も可能であることから、これらの汎用元素を添加した材料も作製し、プロセス条件と組織形成に関係を調べる。さらに、Mg-Al-Mn合金へスズ添加により形成される析出物(Mg2Sn相)は、強度-成形性バランスの同時改善に特に有効であった一方、Mg-Al基合金の一般的な析出物であるMg17Al12相によって、室温プレス成形性は顕著に低下した。このため、室温変形中のき裂形成・伝播挙動に及ぼす析出物の種類やサイズ、量の影響を調べ、析出物を活用したマグネシウム合金圧延材の高性能化指針も提案する。 また、Mg-Zn-Ca合金圧延材でも、組織形成に及ぼすプロセス条件の影響を調べ、ミクロヘテロ構造を形成する加工粒の底面集合組織制御を行う。一方で、Mg-Zn-Ca合金圧延材は、従来合金とは異なる結晶粒径の強度依存性を示したことから、強度および室温プレス成形性の改善に結晶粒径の微細化が特に有効であると考えられる。このため、微量元素による結晶粒の微細化も狙う。具体的には、Mg-Zn-Ca合金中で粗大な化合物を形成し難いと予想されるイットリウムおよびマンガンを添加した材料を作製し、圧延材の組織形成に及ぼすプロセス条件の影響を評価する。
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