研究課題/領域番号 |
22H00281
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
谷口 正輝 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (40362628)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 量子干渉 / 1分子識別 / DNA / トンネル電流 / 量子コンピュータ |
研究実績の概要 |
DNAを構成する4つの核酸である、アデノシン、シチジン、グアノシン、チミジンの1分子コンダクタンスを計測した。計測で得られた大量の電流―時間波形からランダムに抽出した波形を調べたところ、アデノシンの波形にのみ、2つのコンダクタンスプラトーが、高頻度で観察された。アデノシンの量子化学計算から、最適化構造と分子軌道が決定され、1分子コンダクタンスにおける量子干渉則により、電子的な電極―分子間相互作用と、電流経路の許容・禁制の複数の組合せを決定した。電極から分子への電子の入射と、分子から電極への電子の出射を量子ビットに対応させ、計測で得られた1分子コンダクタンス、電極―分子の電子的な接合状態、および量子干渉則を満たす量子ゲートを、Xゲート、Y回転ゲート、制御NOTゲートから構築した。Y回転ゲートの回転角θは、重ね合わせ状態をつくる電流経路に重み付けを与えた。計測で得られた核酸分子の1分子コンダクタンスの度数分布を作成し、度数分布に基づき、回転角θの分布を決定した。アデノシンでは、高い、低い、および重ね合わせ状態の中間状態の1分子コンダクタンスの回転角θを、それぞれ、0°、90°、45°と決定した。 決定した量子ゲートによる量子計算を介して、1分子コンダクタンス計測データからアデノシンの識別強度を計算した。シミュレーションで得られたアデノシンの1分子コンダクタスをテストデータに用いると、量子シミュレーションでは100%の識別精度が得られた。さらに、5ビットの量子コンピュータを用いてアデノシンの識別を行ったところ、81%の識別精度が得られ、構築したアデノシンの量子ゲートがアデノシン識別器として機能することを実証した。さらに、4つの核酸の計測データを量子コンピュータで解析した結果、アデノシンを100%の強度で識別することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、アデノシンを識別する量子ゲートを構築し、4つの核酸の1分子コンダクタンスデータを用いて、構築した量子ゲートがアデノシンを高精度で識別できることを実証した。量子ゲートは、計測で得られた1分子コンダクタンス、分子―電極の電子的な接合状態、1分子コンダクタスにおける量子干渉則を満たすことを明らかにできた。本年度行った研究は、1分子を識別する量子ゲートモデルの妥当性を評価するプロトコルの1つになる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、当初の計画通り研究は進捗したものの、量子干渉が、電流経路だけでなく、分子と電極のコンフィグレーションにも生じている可能性が示唆された。これは、電子だけでなく、原子核でも量子干渉が生じる可能性を示唆している。原子核の量子干渉は、プロトンでは理論的に研究されてきたが、1個のプロトンを計測する手法が無かったため、実験的には研究されていない。そこで、1分子内におけるプロトン移動による1分子コンダクタンスの変化を調べるため、分子内水素結合を持つ分子を対象に、本年度構築したプロトコルを適用する。分子内水素結合を持つ1分子を計測する場合、分子―電極コンフィグレーションとプロトン位置の組合せの数を上限に、1分子コンダクタンスの種類が得られる可能性がある。計測で得られる1分子コンダクタンスのクラスタリングとベイズ情報量基準を用いて、1分子コンダクタンスの分類を行う。さらに、1分子接合の構造最適化と1分子コンダクタンスシミュレーションを行い、分類された1分子コンダクタンスの構造を決定する。
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