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2023 年度 実績報告書

量子干渉を用いた1分子識別法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22H00281
研究機関大阪大学

研究代表者

谷口 正輝  大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (40362628)

研究期間 (年度) 2022-04-01 – 2025-03-31
キーワード量子干渉 / 1分子識別 / DNA / トンネル電流 / 量子コンピュータ
研究実績の概要

1分子内におけるプロトンの量子干渉効果を調べるため、まず、プロトンの付加・脱離に伴う1分子コンダクタンスの変化を調べた。具体的には、水酸基、カルボン酸、およびアミノ基を持つL-ドーパと、水酸基とアミン基を持つドーパミンを計測対象とした。これらの分子は、pHにより、プロトンの付加・脱離を制御することが可能である。pH=7.6で、機械的破断接合法を用いて、L-ドーパとドーパミンを計測したところ、スパイク状の電流―時間波形が得られた。最大電流値のヒストグラムから、ともに、最頻値が19pAであった。電流―時間波形の機械学習を行っても、識別精度は57%であった。pH=3では、L-ドーパとドーパミンの最頻電流値は、それぞれ、29pAと16pAであった。得られた電流―時間波形の機械学習から、識別精度が向上し、86%となった。量子化学計算の結果、プロトン付加により、L-ドーパのHOMOのエネルギーが高くなり、ドーパミンのHOMOのエネルギーが低くなることが示唆された。電極―分子間相互作用の大きさが同程度であると仮定すると、1分子コンダクタンスの変化は、HOMOのエネルギー変化が原因である考えられる。この結果は、プロトンの付加・脱離により、1分子コンダクタンスが制御されることを示している。
プロトンの量子干渉が生じる場合、プロトンの付加・脱離による1分子コンダクタンス状態は確率的に観察され、一義的に決定されないと考えられる。そのような状態では、プロトン付加体、または脱離体のみを単離して計測することが不可能となり、単離できない2種類の分子を識別する手法が必要である。そこで、2種類の分子の異なる混合比における波形を学習して、2種類の分子を識別する機械学習法を導入した。グアノシンとチミジンの混合溶液に適用した結果、2種類の分子の高精度識別に成功した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

分子内プロトン移動を想定して、プトロンの付加・脱離における1分子コンダクタンスの違いを識別できることを実証した。しかし、プロトンの量子干渉効果が分子内で生じる場合、異なる1分子コンダクタンス状態が単離されることはなく、2つの状態が確率的に存在することになる。一方、これまでの機械学習は、純粋なAとBの分子の電流―時間波形を計測して学習するため、2種類の分子は単離されなければならなかった。決定できるのは2種類の分子の存在比であり、混合状態の波形を用いて、2種類の分子の波形を識別する手法の開発が課題であった。本年度は、新たな機械学習を導入することで、異なる混合状態のサンプル計測から、2種類の分子を識別する手法の開発に成功した。

今後の研究の推進方策

昨年度の研究で、プロトン付加・脱離に伴い、1分子コンダクタンスが変化することを実験とシミレーションの両面から実証した。また、単離できないと予測されるプロトン付加位置が異なる2種の分子を識別する機械学習法の実装に成功した。次年度は、分子内でプトロン付加位置の異なる2種の分子が存在するpH条件下、1分子計測を行い、昨年度、実装した機械学習法を用いて、2種分子の識別と、2種分子の存在比を求める定量解析法を確立する。さらに、pHと分子濃度を変化させて、2種分子の識別と定量解析を行い、プロトン付加・脱離反応速度の導出を行う。1分子計測系は、1nm以下のナノギャップ電極間に形成される強電場環境にあり、電極先端は1原子状態であるため、バルクとは異なる反応が生じると期待される。特に、プトロン付加・脱離反応のポテンシャル障壁をトンネルするプロセスの可能性を、量子化学計算を用いて詳細に検討する。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Total variation denoising-based method of identifying the states of single molecules in break junction data2024

    • 著者名/発表者名
      Komoto Yuki、Ryu Jiho、Taniguchi Masateru
    • 雑誌名

      Discover Nano

      巻: 19 ページ: 20(1-8)

    • DOI

      10.1186/s11671-024-03963-4

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Self-Assembled Monolayers of Gemini-Type Amphiphilic Hexabenzocoronenes on Gold: Contribution of Their Triethylene Glycol Side Chains to Self-Assembly Formation2023

    • 著者名/発表者名
      Tanaka Hiroyuki、Taniguchi Masateru
    • 雑誌名

      Langmuir

      巻: 39 ページ: 15078~15084

    • DOI

      10.1021/acs.langmuir.3c02130

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Direct biomolecule discrimination in mixed samples using nanogap-based single-molecule electrical measurement2023

    • 著者名/発表者名
      Ryu Jiho、Komoto Yuki、Ohshiro Takahito、Taniguchi Masateru
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 13 ページ: 9103(1-8)

    • DOI

      10.1038/s41598-023-35724-1

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Machine learning and analytical methods for single-molecule conductance measurements2023

    • 著者名/発表者名
      Komoto Yuki、Ryu Jiho、Taniguchi Masateru
    • 雑誌名

      Chemical Communications

      巻: 59 ページ: 6796~6810

    • DOI

      10.1039/d3cc01570j

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Single-Molecule Identification of Nucleotides Using a Quantum Computer2023

    • 著者名/発表者名
      Taniguchi Masateru、Ohshiro Takahito、Tada Tomofumi
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry B

      巻: 127 ページ: 6636~6642

    • DOI

      10.1021/acs.jpcb.3c02918

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Quantitative Microscopic Observation of Base-Ligand Interactions via Hydrogen Bonds by Single-Molecule Counting2023

    • 著者名/発表者名
      Takashima Yusuke、Komoto Yuki、Ohshiro Takahito、Nakatani Kazuhiko、Taniguchi Masateru
    • 雑誌名

      Journal of the American Chemical Society

      巻: 145 ページ: 1310~1318

    • DOI

      10.1021/jacs.2c11260

    • 査読あり
  • [学会発表] AI×量子×バイオ×1分子技術の融合2024

    • 著者名/発表者名
      谷口正輝
    • 学会等名
      第39回関西ライフサイエンス
  • [学会発表] Methylation measurement of miRNAs using single-molecule quantum sequencer2023

    • 著者名/発表者名
      Masateru Taniguchi
    • 学会等名
      第110回日本泌尿器科学会総会 Ever Onward~限りなき前進~
    • 招待講演
  • [学会発表] Al-nanopore platform for testing rapid infectious diseases2023

    • 著者名/発表者名
      Masateru Taniguchi
    • 学会等名
      The 5th Monash University-Osaka University Joint Sympojium on Advanced Biomedical Sciences
    • 招待講演
  • [学会発表] データマネジメントビジネスを生み出す1分子解析技術2023

    • 著者名/発表者名
      谷口正輝
    • 学会等名
      日本真空工業会関西支部・日本表面真空学会関西支部・秋季合同講演会
    • 招待講演
  • [備考] 谷口研究室

    • URL

      http://www.bionano.sanken.osaka-u.ac.jp/

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公開日: 2024-12-25  

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