研究課題/領域番号 |
22H00288
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
塚崎 敦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50400396)
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研究分担者 |
野島 勉 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80222199)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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キーワード | 界面物性 / 薄膜物性 / カゴメ格子 / 電気化学エッチング / 電気二重層トランジスタ |
研究実績の概要 |
本研究では、カゴメ格子を持つ金属間化合物に着目して、薄膜合成手法と電気化学エッチング法を駆使することで極薄膜物性を精密に評価し、それらの理解に繋げることを目的にしている。今年度は電気化学エッチング法の元素種依存性を明らかにするための様々な薄膜合成を最適化しつつ、Co3Sn2S2の極薄膜電気伝導測定を実施した。薄膜合成では、これまでに達成しているCoとFeの精密合成に加えて、TiとNiの薄膜合成にも取り組み、形成した薄膜の基礎特性評価と電気化学エッチングの反応特性評価を実施した。Co3Sn2S2の極薄膜電気伝導測定では、素子形状の改善とエッチング条件を最適化することで、約1nm程度の厚さまで薄くした状態での電気伝導測定を可能にする方法を見出すことができた。このデバイス形状に関する知見は他の物質の研究推進にも有効であった。TiとNiのカゴメ格子ではTi3SnとNi3Snの薄膜化が可能になった。スパッタリング法による合成において、組成調整と堆積温度、熱処理温度を最適化することで、単相の薄膜を得ることに成功した。電気伝導測定では金属的な振る舞いが観測された。これらの試料を電気化学エッチング法による極薄膜実験に適用したところ、元素種ごとに電気化学反応の速度や最適温度に違いが観測され、それぞれの試料ごとにエッチング条件を最適化する必要があることがわかった。今年度の成果では、Co3Sn2S2のエッチングについて学会発表を行い、本手法の有用性をアピールするとともに、実験を進める上での注意点などを議論して整理できた。実験手法をおおむね確立できたことから、今後、様々な物質系のエッチングと物性評価に注力して取り組み、極薄膜物性の開拓研究を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、推進の計画に添って実験を進めることができ、合成と測定の両面で進展した。薄膜合成においては、Ti3SnとNi3Snの合成条件最適化を実施でき、物性評価を行えるようになった。計測手法の確立に対しては、Co3Sn2S2薄膜を用いて電気化学エッチング法を適用し、精密な条件設定を工夫して検証することによって約1nmまで薄くする技術として確立できた。電気化学エッチング手法を金属間化合物であるカゴメ物質群に適用する際には、層状物質の場合と異なり、元素ごとの反応性に注意する必要がある。これまでにCoとSnの化合物で評価した場合、SnよりもCoの方が優先的に脱離することが明らかになっている。さらに、FeやTi、Niの化合物でも実験を進めることで、これらの反応における特性が3d遷移金属種に依存することを明らかにできた。昨年の論文出版以来、学会発表を積極的に行い、手法の有効性や課題について議論でき、制御性の改善に向けた素子形状などの工夫を検証する実験を実施している。また、理論グループとの議論を通して、極薄膜領域で顕著となる物性を明らかにした上で実験を推進している。課題として見出されているのは、実際の膜厚を計測する手法の重要性である。光学特性を用いた評価は室温での実施であり、電気化学エッチングにおいては調整の難しい温度になるため、室温の抵抗値と光学特性とを対比して膜厚を推定する実験を進めている。しかしながら、数nm以下での調整を精度良く行うためにはさらなる改善が必要である。これらの実験を推進することで、実験手法を改良するとともに、低温電子伝導特性を精密に評価することでカゴメ格子の物性理解に繋げる。これらの進捗状況から判断して、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の実験を通して、電気化学エッチング法を様々な3d遷移金属を有するカゴメ格子薄膜に適用でき、反応制御を元素ごとに最適化する必要があることを明らかにした。したがって、今年度はそれぞれの薄膜において最適反応条件を見出すことに取り組みながら極薄膜の物性評価を実施する。 実験室の移設を9月に予定しており、数ヶ月実験環境が停止することになるため、実験進捗への影響を抑えるために、あらかじめ計画的に準備する。装置停止以前に、試料準備に集中的に取り組み、移設後には、計測装置の立ち上げと合わせてそれら試料の計測から再開する、という計画で進める。合成装置の移設では、真空の回復と合成条件の再度の最適化を行う必要があるため、ある程度の時間を要すると予想される。合成の最適化と計測実験を並行して進めることで、合成条件の最適化の間にも研究が進捗するように取り組む。加えて、室温での光学測定の改良など、新たな観点での実験にも着手するなどして進める。実験停止期間中には、理論の研究者との共同研究議論を行い、新たに着手するカゴメ物質の探索や極薄膜において電子状態が大きく変化すると期待される物質系の探索を進めて、移設後の実験対象として準備する。移設後には、低温伝導特性に集中的に取り組み、3d遷移金属依存性や極薄膜状態の伝導特性について理解を進めて、論文や学会発表も積極的に行う。
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