研究課題/領域番号 |
22H00289
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
藤田 淳一 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10361320)
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研究分担者 |
嵐田 雄介 筑波大学, 数理物質系, 助教 (30715181)
赤田 圭史 筑波大学, 数理物質系, 助教 (50815892)
吉田 昭二 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (90447227)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超高速AFM / パルスレーザー / KPFM / WSe2 / タッピング / 光励起子 |
研究実績の概要 |
本研究では超高速AFM可視化技術を開発し、パルス光照射によって試料表面に生じる光励起キャリアや電荷移動過程を高い時空間分解能で観測することを目的としている。今年度はチューニングフォークを用いた超高真空・非接触AFMとパルスレーザーを組み合わせることでバルクWSe2表面の光励起キャリアの緩和過程の計測に成功した。パルスレーザーとして外部トリガ駆動可能なピコ秒レーザーを2台用いて遅延時間を高速に変調する独自の方法を採用することで、レーザー照射によって発生する熱の影響を回避して高精度の計測が可能であることを実証した。 また並行して大気中タッピングAFMをベースとした超高速AFM装置の開発を進めた。まず大気中システムでは可能なKPFM計測方式がAM変調方式のみであり表面電位の検出感度が低いという問題があったが、外部ロックインアンプ(MFLI)と組み合わせることでFMサイドバンド方式での測定を可能にし、光照射によって発生する表面電位の変化を高感度に計測できるようになった。加えてAFM探針先端にレーザー光を効率よく集光するための光学系を設計し導入した。その結果NA0.4の対物レンズを用いて1.3μm以下のスポット径でレーザーを集光することが可能となった。また光学系に搭載した自動ステージをリモート操作するソフトウェアを開発しサブμm精度でレーザースポットの位置決めを可能にした。以上の開発により今後大気中システムでも高精度の計測が可能になると期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の高繰り返しレートのピコ秒レーザーの導入が大幅に遅れて状況を受けて、今年度もレーザー機能、とくに外部トリガとの同期に不具合を生じた。この解決のためにレーザー装置製造会社(フランス、日本レーザー)の技術と相談しながら解決策を模索した。昨年暮れになんとか当初予定の機能を確保できたものの、昨年度予定した研究計画からは少し遅れを生じてしまったが、おおむね順調に進展している。 超高真空NC-AFMシステムを用いた実験ではAFMによる時間分解計測に初めて成功し、安定かつ高いS/N比で局所領域のキャリアダイナミクスを測定できることが明らかにしており大きな進展が得られた。一方大気中のシステムでは、導入したレーザーの不具合などにより開発が遅延しているが、AFM装置や光照射系の開発など主要な装置開発はおおむね終了している。以上を総合しておおむね順調に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
大気中AFM装置と組み合わせて使用するピコ秒レーザーを用いた光パルス対の遅延時間変調システムを立ち上げる。そのためにレーザーから出力されたピコ秒パルスを2つに分岐し、片方のパルスの遅延時間を光学遅延ステージにより制御する。EOMを用いて光学遅延の異なるパスを切り替えることでパルス対の遅延時間を高速に切り替える仕組みを導入する。この方式により光強度を変化させずに遅延時間のみを変調できるので探針の熱膨張などのアーティファクトが信号の重畳するのを回避して高精度の時間分解計測が可能となる。またこの方式ではパルス間のジッターが存在しないので、パルス幅(=20ps以下)の時間分解能での計測が可能となる。このようにして作成した遅延時間制御パルス対を2023年度に導入した光照射ユニットを用いてAFMの探針に集光する。光パルスの遅延時間に依存したAFM探針-試料間相互作用の変化(力変化)はFM-KPFMで検出し、MoS2単層の光生成キャリア・励起子のダイナミクスや、ポテンシャル変化の時空間分解イメージングを行う。
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