研究課題/領域番号 |
22H00311
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中村 貴義 北海道大学, 電子科学研究所, 教授 (60270790)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 超分子 / 強誘電体 / リラクサー / マルチフェロイック |
研究実績の概要 |
超分子構造を活用して、次元性を規制した分極を実現し、局所的な分極構造に基づく分子レベルでチューナブルなリラクサー群を開拓する。また、強誘電性と強磁性を担う集合体を分子レベルで複合化することで、強いスピン-格子相互作用を実現し、type-Imultiferroicおよび、多様な誘電性と磁性のcouplingに基づく新奇磁気電気(ME)効果を開拓することを目的に研究を進めた。 dibenzo[24]crown-8チャンネル構造内に1次元分極構造を形成し、単1次元鎖強誘電体を開拓した。bis(2-chloroethyl)ammonium((ClC2)2NH2+)が結晶内に形成する擬ロタキサン構造では、隣接する分子の末端Cl原子間の立体反発のため、チャンネル内で(ClC2)2NH2+は同一のコンフォメーションをとり、1次元分極配列を与える。1次元分極配列に基づくリラクサー挙動の詳細について物性評価を進め、この系が、チューナブルなリラクサー構築に好適な系であることを明らかにした。 (o-fluoroanilinium)(benzo[18]crown-6)[MnIICrIII(oxalate)3]について、マルチフェロイック性を評価した。結晶は室温で強誘電性発現に必須な極性空間群Ccをもつ。440 K付近以下は、o-fluoroaniliniumの配向分極に基づく強誘電相であり、[MnIICrIII(oxalate)3]-ハニカム構造に対応し、5 K付近で強磁性転移を示す。相転移温度以上ではo-fluoroanilinium、benzo[18]crown-6いずれも結晶内で回転し、対称中心を持つ結晶系に変化するため、常誘電相となることが明らかとなった。さらに、オキザレート錯体の中心金属を変化させ、多様な磁性を発現する系の合成に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一次元鎖分極構造については、明らかにリラクサー的な誘電応答を示し、一元分極構造は一般のリラクサーと同様に局所分極構造として取り扱って良いことが明らかとなった。また、1次元分極構造を持たない同形結晶をbis(2-chloroethyl)ammonium((ClC2)2NH2+)に代えてdipropylammoniumを用いることで合成できる。後者を欠陥として1次元分極構造に導入することでClC2)2NH2+が一次元鎖内で形成する分極の相関長を制御することが可能となる。実際に、結晶の合成時にdipropylammoniumを共存させることで、混晶を合成できることが明らかとなった。今後、この系を用いてチューナブルなリラクサー構築ための重要なステップをクリアしたことになる。 また、(o-fluoroanilinium)(benzo[18]crown-6)[MnIICrIII(oxalate)3]に基づくマルチフェロイック材料の開拓については、Mnに代えて二価のFeイオンを導入しても同形の結晶を与え、さらに、ほぼ同じ温度で強誘電-常誘電転移を起こすことが明らかとなった。マルチフェロイックを構成する一方の磁性について、この方法で多様化ができることが明らかとなり、これについても新奇なマルチフェロイック材料構築に向けた、重要なステップをクリアした。
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今後の研究の推進方策 |
dibenzo[24]crown-8/bis(2-chloroethyl)ammonium((ClC2)2NH2+)が結晶内に形成する擬ロタキサン構造に基づく1次元分極構造(単一次元鎖強誘電体)についてリラクサー誘電応答の機序を解明する。特に、(ClC2)2NH2+より分子体積が小さくまた(ClC2)2NH2+と同形の結晶を与えるジプロピルアンモニウムを結晶内にドーピングし、一次元分極鎖の相関長を制御する。相関長とリラクサー応答との関係について精査し、チューナブルなリラクサー構築のための基礎データを収集する。 また設計性の高い分子性マルチフェロイックの有力な物質基盤とな(o-fluoroanilinium)(benzo[18]crown-6)[MnIICrIII(oxalate)3]に基づく系の展開およびME couplingの機序解明について研究を進める。物質系の多様化のため、Mnに代えて二価のFeイオンを導入した系については傾斜強磁性と強誘電性との共存にもとづく新奇な物性を精査する。さらに、超分子構造を変化させ、様々な誘電性を発現する新規なマルチフェロイック系の合成に着手する。
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