研究課題/領域番号 |
22H00318
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
伊藤 肇 北海道大学, 工学研究院, 教授 (90282300)
|
研究分担者 |
関 朋宏 静岡大学, 理学部, 准教授 (50638187)
久保田 浩司 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (60824828)
陳 旻究 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 准教授 (90827396)
|
研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 有機ケイ素化合物 / 光学活性 / シリルボラン / 光学材料 / 力学材料 |
研究実績の概要 |
有機ケイ素化合物は、通常の有機化合物と比べると複雑な非対称構造を合成することが難しい。これは炭素に比べてケイ素が電気的に陽性な元素であるため、ケイ素求核剤(ケイ素アニオン)の発生が難しいことに起因する。申請者らは、これまでにシリルボランの一般的合成法を開発し、これをケイ素求核剤の前駆体として用いることで、このケイ素化学における長年の課題を解決しつつあった(J. Am. Chem. Soc. 2020; Chem. Sci. 2021)。本研究はこれらの基礎的な知見のもと、複雑な構造を持つケイ素求核剤前駆体の合成とケイ素求核剤発生の方法を確立し、非対称有機ケイ素化合物の精密合成を達成することを目的とした。2022年度および2023年度では、シリルボランによるオリゴシランの連続合成の開発に成功した(J. Am. Chem. Soc. 2023, 145, 16249)。この方法では、任意のシリルボランを用意すれば、様々な置換基を持つオリゴシランを自在に合成することができる。さらにジヒドロシランからのホウ素化により、ヒドロシリルボランの合成に成功、これを用いた官能化シリルボランの合成に成功した。また光学活性ヒドロシランから立体特異的に対応する光学活性シリルボランを合成することに成功し、さらに塩基によるシリルボランの活性化により、光学活性ケイ素求核剤をラセミ化させずに発生させた(Nature Commun. 2023, 14, 5561)。一連の成果はケイ素求核剤の可能性を飛躍的に拡大させるものである。さらに立体障害の大きなシリル基を活用して、反応性の高いジアリールボリル基をもつシリルボランの合成に成功した(論文作成中)。現在さらにシリレンの新しい発生方法の開発を実施している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画では、最初の1-2年目でシリルボランの連続合成法と光学活性シリルボランの合成方法を確立し、これを用いた誘導反応を検討することであったが、これについては1年目でほぼ研究を完了した。また研究計画で2-4年目に実施予定であった、官能性シリルボランを用いたオリゴシランの連続合成法について、現在2年目で基本原理をほぼ確立しており、それを活用して、現在オリゴシランに電子的な機能を持つ置換基(ドナーおよびアクセプター)を導入した新機能の開発を行っている。ヒドロシリルボランをクロロ化することで、クロロシリルボランを合成し、これに塩基を作用させることでシリレンの合成に成功した。また、関連する成果として、環状ボロネートに対するアラインの反応を試み、安定なB-O結合の切断が進行する事を発見した(J. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 1765.)。また、メカノケミカル法により、ケイ素置換不溶性オリゴアレンの合成を報告した。また、銅(I)触媒によるアレンからの位置選択的なアリルホウ素化合物の合成ACS Org. Inorg. Au 2023, 3, 104; Org. Chem. Front. 2023, 10, 4786)を報告した。光学活性遷移金属触媒を用いた非対称ジヒドロシランのエナンチオ選択的ホウ素化による光学活性シリルボランの不斉合成を行ったが、多くの条件検討、触媒検討を行っても、現状では成功していない。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の大部分を二年目までに完了している。本年度は未達成の不斉シリル中心を含んだ有機化合物の合成と、電子機能を持つ官能基や、極性官能基を含むオリゴシランの連続合成を検討する予定である。また、クロロシリルボランからのシリレンの発生をさらに検討し、シリレンの一般的発生法の開発につなげる。これまでに合成が難しかったシリレンの実用的な合成法を開発し、シリレンの新反応の開発とそれを活用した新しい有機ケイ素化合物の合成を実施する。
|