研究課題/領域番号 |
22H00329
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
陣内 浩司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (20303935)
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研究分担者 |
早川 晃鏡 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (60357803)
佐藤 浩太郎 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (70377810)
千賀 亮典 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (80713221)
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研究期間 (年度) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 高分子物理 / 電子顕微鏡 / 高分子一本鎖観察 |
研究実績の概要 |
令和4年度の研究実施計画の大きな柱は、カーボンナノチューブ(CNT)への高分子の確実な導入と透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察のための各グループ間の連携確立である。これは申請書にも記載した「フラーレン(C60)で修飾された高分子が上手くCNTに導入されることは稀である(観察に適する視野は300箇所に1箇所程度)」という予備実験結果を受けての必須検討項目である。CNTに包含された高分子一本鎖の観察は、非常な手間と時間を要する高分解能TEMにより行う必要があるが、これまで観察可能な箇所の特定に多大な時間を費やしており、これでは研究の効率は上がらない。そこで、東工大グループで合成されたC60に結合した高分子を、東北大グループでCNTに導入・予備観察を行い、高分解能観察に適していると思われる試料位置を特定し、その上で、試料を産総研グループで高分解能観察するという一連の流れを作り上げた。C60フラーレンに結合した有機高分子の一本鎖が実際にカーボンナノチューブ内部に内包されていることをTEM構造解析と電子エネルギー損失分光法(EELS)による元素分析の両方から確認した。 試料合成面では、まず、CNTへの導入率を上げることを目的に、これまでの片末端フラーレン含有高分子に加えて、高分子鎖の両末端へのC60の導入の検討を始めた。2官能性開始剤を用いた原子移動ラジカル重合(ATRP)による検討の結果、核磁気共鳴(NMR)によるC60の導入率は高分子1本に対して、1.5から1.7程度であった。また、C60を分子鎖中に1個のみ導入する高分子については、モデル高分子として用いてきたポリスチレンに加え、(TEMでの元素識別イメージングの必要性から)窒素原子を含むポリ(2-ビニルピリジン)の合成に取り組んだ。その結果、制御型ラジカル重合(RAFT)により目的物の合成が可能であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では予定している3年間の研究期間で、(i) カーボンナノチューブ(CNT)への高分子の確実な導入と透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察の基礎確立、(ii) フラーレン(C60)末端各種共重合体の精密合成とTEMによる一本鎖の組成・ブロック性の観察、の2項目の検討を行う。研究第1年目である今年度は、まず(i)に注力した。東工大(合成)、東北大(統括)、産総研(高分解能観察)各グループの間で、(1)高分子合成、(2)高分子一本鎖のCNTへの導入、(3)数百本あるCNTの中から高分子を含有した候補を抽出、(4)候補のCNTについて(東北大Gでは不可能な)高分解能透過型電子顕微鏡(高分解能TEM)による詳細観察、という一連の連携手順を確立した。手順(3)については、東北大所有のTEMにより広い視野で観察する手法を開発し、高分子を含有するCNTの候補を予めスクリーニングすることを可能とした。(3)と(4)の連携では、東北大Gで候補としたCNTを産総研Gの高分解能TEMで見つける必要があるが、これについてもTEM用グリッドに座標を付与することで解決した。高分子鎖を内包すると予測されたCNTについて、電子損失エネルギー分光(EELS)により窒素からのシグナルを利用して、高分子が確かにCNT内部に存在することを証明した。 なお、実験を進めていく過程で、TEM観察のための試料が、観察に用いるロータリーポンプの油によって汚損されていることが分かった。このため、予算の一部を第2年度に繰り越し、油による試料汚損を防ぐポンプの改良を行うこととした。このため、(上記のポンプの問題のため)電顕観察の実験数は予定していた数より多少減少したものの、検討項目については全て完了しており、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上記(i)カーボンナノチューブ(CNT)への高分子の確実な導入と透過型電子顕微鏡(TEM)による形態観察の基礎確立を更に進め、高分子のカーボンナノチューブ(CNT)への導入率を上げる最適条件の探索を進める。また、ロータリーポンプの改良を行い試料汚損が防げる事を確認した後に、実験の量を増やしていく予定である。 また、上記(ii)フラーレン(C60)末端各種共重合体の精密合成とTEMによる一本鎖の組成・ブロック性の観察については、このC60が高分子のCNTへの導入の牽引力になることから、これまで高分子末端に1つ付けていたC60を複数にすることでCNTへの導入率を高める予定である。この件については東工大Gがすでに検討を始めており、高分子1本に対して1.5から1.7個のC60を導入した高分子鎖の試作に成功している。今後は、複数個のC60を導入し窒素など電子エネルギー損失分光法(EELS)で位置同定を行いやすい元素を含む高分子鎖の合成を進めていく。さらに、最終年度を見越して、ランダム共重合体・交互共重合体・テーバード共重合体・ブロック共重合体などモノマー配列が異なるC60付き高分子の合成にも取り組む。
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